English

+テクノロジー

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

2018/12/10
「中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解く」 主任研究員 岩田祐一

中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解く

(米中経済研究会コメンタリーNo.2)

主任研究員 岩田祐一

1210日(月)日本時間午後230分時点の情報に基づく

1217日(月)日本時間午前9時時点の情報に基づきアップデイトしました

■突然のCFOの逮捕劇

 日本時間12月6日(木)に、世界を激震させるニュースが走った。

 世界トップクラスの通信機器メーカーで、中国の先端技術企業の代表格とされる、華為技術(以下「ファーウェイ社」)の最高財務責任者(CFO)で、創業者の娘である孟晩舟氏が、カナダ・バンクーバーで12月1日(土)に逮捕されていた、とのニュースである。この背景には、米国のイラン経済制裁への違反があり、身柄が米国政府に引き渡される方向、との報道がなされている [1]

 おりしも、米中首脳会談で、技術強制移転も含めた米中経済摩擦がイシューになっていた折だけに、このタイミングは注目されるものである。

■伏線としての米国からの説得? そして友好国の対応

 これにさかのぼること2週間ほど前に、米国政府は、日本、ドイツを含めた同盟国の政府並びに通信事業会社に対して、情報セキュリティ上の重大な懸念から、通信ネットワークへのファーウェイ社製品の使用を控えるよう、説得を行っているとの報道がなされた。[2]

通信サービスは、おおまかには2つの要素からなる:

1)通信事業者が保有するネットワーク(物理的に通信を運ぶ光ファイバー、電波基地局等と、その設備の中を経由して流れる通信トラヒックを中継するルーター等からなる) 

2)上記ネットワークに接続して、利用者が保有する端末(スマートフォン等)

上記報道は、前者に関しての説得である。

 これに呼応した部分もあり、まずはオーストラリア、ニュージーランドの通信事業者が、通信ネットワークからの、ファーウェイ社機器排除方針をいち早く打ち出した。[3]

そして125日までに、英国においても、情報機関MI6からの警告に基づき、British Telecom(以下「BT社」:日本でいうNTTの位置づけに相当するインカンバント(伝統的)通信事業者)が、ファーウェイ機器の排除方針を打ち出した、との報道が流れた。[4]

 同報道によると、BT社は2005年から、自社の通信ネットワークに、ファーウェイ社製品を採用したものの、2006年以降、内部規定より、その使用をネットワークの末端部分のみに制限してきたとのことである。しかしながら、2016年の、英国最大手の携帯通信事業者Everything Everywhere社(以下EE社)買収により、同社がファーウェイ社製品を基幹ネットワーク部分含めて採用していたことから、この扱いについて検討をしていた。

 おりしも、次期第五世代(5G)ネットワークの機器採用プロセスを迎えており、BT社は、同プロセスの対象からファーウェイ社を外すとともに、既存の第三世代・第四世代(3G・4G)ネットワークからもファーウェイ社製品を除外する方向で検討を進める、と、同報道ではされている。

 EE社はもともと、オレンジ社(旧フランステレコム、フランスでいうNTTの位置づけに相当)、とドイツテレコム社(ドイツでの同様の位置づけ)の、英国における合弁企業として運営されてきた会社である。

 今回の米国から同盟国への説得に対して、現地時間の1214日までに、EE社の旧親会社の一方であるオレンジは、5Gネットワークのベンダー選定からファーウェイ社製品を除外する旨を同社CEOが明らかにしたものの、もう一方の旧親会社のドイツテレコムは、除外について本格的な検討をしている旨明らかにするにとどまっている。[5]

■日本の対応

 日本においては、どの通信事業者がファーウェイ社製品をどういった形で採用しているかは明らかではないが、新興通信機器メーカーの採用に積極的な通信事業者とそうでない事業者とのスタンス差異がこれまで比較的明確だったことに加え、調査会社MCA社の調べによれば、ソフトバンクグループでは近年大幅にファーウェイ社製通信機器をネットワークに採用しているとの報道がなされている。[6] またNTTは、5G通信基地局にファーウェイ社製品を採用しない旨を持株会社社長が明らかにしている。[7]

 日本政府は、各府省庁や自衛隊などが使用する情報通信機器から、安全保障上の懸念が指摘されるファーウェイ社とZTEの製品を事実上、排除する方針を固めた [8]ほか、5G周波数の通信事業者への割当においても、同方針に留意した指針案とする方向を総務省が明らかにした。[9] 

■ファーウェイ社の位置づけ

 ファーウェイ社自体の歴史はまだ30年余り、そしてグローバルプレイヤーとして認知されてからは10年足らずと非常に浅く、有力通信機器メーカーのなかでは後発組である。中国勢として比較されるZTE社に比べると、売上高で約3倍の規模とされるうえ、通信ネットワーク機器への強みでは、ファーウェイ社が断然存在感が上である。また、ファーウェイ社と日本の各社との比較では、売上高で富士通やNECを大きく上回り、国内最大手パナソニックと比肩するレベルである。

通信ネットワークの構造が、従前の電話網(同期通信技術)から、インターネット網(非同期通信技術)に代わってきた2000年前後に於いて、通信機器メーカーの顔ぶれは大きく変貌を遂げたものの、現下の世界の主要プレイヤーとしては、電話網時代から存在する欧州勢(エリクソン社他)、インターネット網時代に台頭した米国勢(シスコ社他)、そしてインターネット網定着後に頭角を現してきた中国勢(ファーウェイ社他)と、大まかに分けることができる。

少なからぬ有力中国企業が、地方政府や軍閥との関係性をバックに大きくなってきた、とされるなか、ファーウェイ社は、そうした関係性とは無縁であることを主張してきた。

■ファーウェイ社へ突きつけられる大きな課題

 しかしながら、ファーウェイ社はいまだ株式公開が為されておらず(株式の100%を創業者並びに従業員組合が保有)、自主的に財務状況を開示してはいるものの、その経営状態の透明性という意味では、株式公開を行っている前述の欧州勢・米国勢と比較すると、劣後する部分があることは否めない。

 また通信サービス事業者、そしてそれを支える通信機器メーカーは、技術革新をリードして利潤を追求し続けるとともに、プライバシーとしての「通信の秘密」をも維持する、という二律性を追わねばならない宿命にある。つまり「革新性」と「信頼性」とを両立した企業であり続ける必要がある。

 前述の技術変化(電話網→インターネット網)に於いて、欧米そして日本の多くの通信機器メーカーが、事業の廃業もしくは大幅な縮小を余儀なくされた。それらの多くは、大きな技術変化の流れのなかで「革新性」を十分に発揮できないまま、利潤縮小に追い込まれた企業である。

 現下のファーウェイ社については、多数の特許取得等「革新性」を発揮し、市場をリードしているとみなされているものの、その「革新性」についても、2003年の米シスコ社からの知財訴訟にみられるよう、かねてより疑問が投げかけられてきている[10]。 一方、今回の一連の動きは、通信の秘密を維持する「信頼性」において、明らかなクエスチョンが投げかけられているもの、といってよい。特に米国にとっては、軍事の通信ネットワークでさえも、独自保有のみならず、民間通信事業者のネットワークも活用しているのが実際である。より神経をとがらせるのも無理はない。

 いくら、ファーウェイ社自身が、中国政治・軍部からの独立性を主張しても、グローバルな「信頼性」の獲得・維持・向上には限界がある。とりわけ今回、孟晩舟CFOは少なくとも7つ以上の旅券を保持していた、とのカナダ当局訴追資料への記載が報道されている [11]。この多数旅券保持が事実とすれば、同CFOは、通常の経営者では想定されない、特殊な任務についていたとの疑いを持たれても何ら不思議ではない。また、この逮捕について、中国政府からの抗議が出ていることも、こうした独立性の主張を、むしろ損ねることにはなりはしないか。(通常、企業経営者として潔白な身を証明するのであれば、まずは自身として、そして企業としての行動が優先なのだから)

■原点認識の必要性:「通信事業における信頼性」そして「通信の安全保障の在り方」

 とはいえ、ファーウェイ社の製品は、品質のわりに価格が安価であるため、先進国のみならず中進国・発展途上国の通信事業者からの採用が増え続けていることが、その競争力の源泉であることには疑いない。(また米国にとっては、自国の主要企業であるシスコ社の地位を脅かされることは、様々な意味で悩ましいことだろう)

 しかしその品質・価格競争力を財務面・精神面から支えてきた、CFOである創業者の娘の逮捕は、ファーウェイ社にとって痛手であろう。

 本件をきっかけに、ファーウェイ社自身が、「革新性」と「信頼性」とをフェアに追求し続ける企業、というグローバル認識を、いかに獲得・確保するか、言い換えると、通信機器メーカーとしての原点にどこまで立ち返ることができるか、が、同社の命運を左右し、ひいては、科学技術立国としての中国の命運を左右するものである、といえる。

 また日本は、通信サービス・通信機器の安全保障問題について、幅広く考えることが必要である。具体的には、世界各国において、政府としての対策や通信事業者への働きかけなど、事態が動いていることを的確に把握し、政府の方針を明確にする必要がある。

ことサイバーセキュリティについては、いくら末端機器単位で防御をしにいったとしても、通信ネットワークの途上で何らかの仕掛けをされては、末端の防御の努力が水の泡である。1980年代以降、世界中ほとんどの国で、国際・国内通信事業が、民間の手によって担われるようになってきている今、通信事業者の意識と努力を促し、必要なサポートをすることに勝る、政府としての通信に関する安全保障の打ち手はないことを、改めて認識する必要がある。さらに電力会社や金融機関をはじめとする社会インフラ事業者の対策も求められている。


[1]英国BBCによる(https://www.bbc.com/news/business-4646285812/6閲覧

[2]米国Wall Street Journal紙による(https://www.wsj.com/articles/washington-asks-allies-to-drop-huawei-154296510512/6閲覧

[3]豪州Sydney Morning Herald紙による(https://www.smh.com.au/business/companies/new-zealand-joins-australia-in-banning-huawei-20181128-p50iz5.html) 12/6閲覧

[4]英国BBCによる (https://www.bbc.com/news/technology-46453425) 12/6閲覧

[5]英国ロイター通信による (https://www.reuters.com/article/us-huawei-europe-germany/deutsche-telekom-reviews-huawei-ties-orange-says-no-on-5g-idUSKBN1OD0G7) 12/15閲覧

[6]ケータイWatchによる (https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/mca/1140872.html) 12/6閲覧

[7]産経新聞による (https://www.sankei.com/economy/news/181213/ecn1812130031-n1.html) 12/15閲覧

[8]読売新聞による (https://www.yomiuri.co.jp/politics/20181210-OYT1T50036.html) 12/10閲覧

[9]iza産経デジタル(http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/181214/ecn18121423210033-n1.html) ならびに総務省「第5世代移動通信システムの導入のための 特定基地局の開設に関する指針について」P21http://www.soumu.go.jp/main_content/000589764.pdf)による 12/15閲覧

[10]米国Bloombergによる (https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-12-06/how-huawei-arrest-extends-troubled-history-with-u-s-quicktake) 12/6閲覧

[11]読売新聞による (https://www.yomiuri.co.jp/world/20181209-OYT1T50025.html) 12/9閲覧


< 前のページに戻る

+テクノロジーの最新記事

記事一覧へ >

他の研究活動

公益財団法人 中曽根康弘世界平和研究所(NPI)
Copyright ©Nakasone Peace Institute, All Rights Reserved.