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2020/03/16
新型コロナウイルスの世界的拡がりに対する"デジタルな"戦い 主任研究員 岩田祐一

新型コロナウイルスの世界的拡がりに対する"デジタルな"戦い

(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コメンタリーNo.6)

 

主任研究員 岩田祐一

 

■新型コロナウイルスと流行の予測モデル

 

 新型コロナウイルス(2019nCoV)の世界的拡大が止まらない。3月15日時点でのロイター通信のまとめでは、世界の患者数は約17万人、死者は6,000人を超えた[1]。

 この拡がりに対し、デジタル技術を駆使した様々な拡大防止への取り組みが行われている。

 

 その1つは、流行の予測モデルである。米国Northeastern大学では、EpiRisk(http://epirisk.net/)と呼ばれるツールを開発した[2]。これは、感染した個人が旅行を介して世界の他の地域に病気が拡がる確率を推定するものである。

 特に、政府による介入の効果(交通機関の制限、学校閉鎖など)が、病気の拡がりにどの程度の有効性を示しているかに着目可能なツールである。限られた入手データ、絶えず変化する状況、それらを補う多くの仮定、これらに日々対処しつつ、世界中の研究チーム等との対話に基づき、このツールは更新されている。

 こうした予測モデルづくりは、数年前から、すでに季節性インフルエンザの予測支援のために、米国CDC(疾病管理予防センター)にて始められており、世界中で様々な取り組みがなされている。日本においても、特に北海道をはじめとした感染拡大防止に対して、感染症数理モデルの日本の第一人者である、北海道大学西浦博教授の分析が寄与している[3]。

 

 

■突然変異に関する観察・分析

 

 また、新型コロナウイルスの感染力を左右する、「突然変異」に関する観察・分析も、重要な取り組みである。

 ウイルスは増殖するために、寄生する宿主(生物)を必要とするが、感染した細胞の中で自分の遺伝情報を複製し増殖していく際に、突然変異が生じることがある。特に新型コロナウイルスが含まれるRNA(リボ核酸)ウイルスはその変異が生じやすい。[4]

 

 この特定突然変異の状況を全世界で追跡することにより、新型コロナウイルスのグローバルな系統樹(家系図のようなもの)を作成でき、封じ込めが機能している場所としていない場所を検出するのに、役立てることが出来る。

 既に季節性インフルエンザやエボラウイルスなどでそうした実績を挙げてきているNextstrainプロジェクトでは、新型コロナウイルスについても同様の系統樹を作成しつつある。(https://nextstrain.org/ncov) [5]

 

 

■「何が判っていて、何が判っていないか」の重要性

 

 こうした取り組みも含め、「生じている問題を、データや調査を通じて、理解可能にし、アクセスしやすくする」(いわば「見える化」ともいえる)営みは、新型コロナウイルスのように、全貌やそのリスクが見えにくく把握されていないものに向き合う時に、最も大切な取り組みといえよう。

 オックスフォード大学のMax Roser博士が創設した"Our World in Data"というオンラインサイトでは、新型コロナウイルスが引き起こすCOVID-19についても、網羅的なカバーを行っている。(https://ourworldindata.org/coronavirus

 

 このサイトでは、コロナウイルスの定義、COVID-19の指数関数的な伸び、国別のデータ(米国Johns Hopkins大学、WHO(世界保健機構)、中国CDC等がそれぞれまとめたもの)、COVID-19の症状と病気の進行、そして死亡リスクについて、明らかにされているデータから纏めている。

 そのなかでもとりわけ、致死率の解釈については、丁寧な説明が行なわれている。COVID-19については、現在流行中の感染症であり、症状の発現から死亡までの時間が2~8週間とみられることから、多数の症例の結果がまだ不明であり、現在観察されている致死率よりも上昇する可能性も下降する可能性も有る、という点である。

 

 この新型コロナウイルスそしてCOVID-19について、判っていることは限られている。しかしながら、「何が判っていて、何が判っていないか」そして「判っていることについてはどういった留保条件が付き、判っていないことに対しては何に基づきどういった推定が可能か」を知るだけでも、より適切な対処行動を検討し、実行に移すことが可能になる。

 上記サイトでは、COVID-19への対処の最大のポイントを「早期の封じ込めにより、医療システムがそれを必要とするすべての人にケアを提供できること」と示している。医療システムが対処できる患者数を上回る爆発的な重症患者の発生が、最も避けるべきリスクということである。[6]

 私たちを取り巻く日々の情勢変化や施策変化も、こうしたポイントに沿ったものになっているかどうか、吟味することで、日常行動の制約や注意点についても、納得感と安心感を得られるのではないだろうか。

 

 

[1]詳細は以下ロイターサイトを参照(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-MAP-LJA/0100B5FZ3S1/index.html)3/16閲覧

[2]詳細は以下IEEE(米国電気電子学会)サイトを参照(https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/predicting-the-coronavirus-next-moves)3/11閲覧

[3]詳細は以下北海道大学サイト(https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/contents/article/1866/)および日本外国特派員協会でのカンファレンスを参照(http://www.fccj.or.jp/news-and-views/club-news-multimedia/2163-hiroshi-nishiura-combatting-the-new-coronavirus.html) 3/11閲覧

[4]詳細は例えば以下書誌を参照(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/55/2/55_2_221/_article/-char/ja/)3/11閲覧

[5]3月5日時点でのレポート(日本語を含む10か国語で表示可能)は以下を参照(https://nextstrain.org/narratives/ncov/sit-rep/en/2020-03-05) 3/11閲覧

[6]目下のイタリアの状況を見れば明らかである

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