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2020/07/13
「デジタルプラットフォーマーと金融」【上・プレゼン編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、中国金融ビジネスに長年携わってきた岡野寿彦研究委員(NTTデータ経営研究所シニアスペシャリスト)、および岩田祐一研究委員(中曽根平和研究所主任研究員)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】【中・議論編1】【下・議論編2】の3回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちら、岡野委員のプレゼンテーション資料はこちらをご覧ください。

 

 

1 プレゼンテーション「デジタルプラットフォーマーと金融・中国編」(岡野委員)

 

■「困りごと」の「マッチング・解決」で成長してきた'BAT'

アリババ、テンセント等に代表される中国のデジタルプラットフォーマーは、1990年代後半から2010年代初めまでは中国の経済成長過程の中で、モノを売りたい人と買いたい人それぞれの「困りごと」の「マッチング・解決」から成長してきた。

電子商取引(EC)を中心とするアリババを例に説明すると、ECにかかる各種不安に対して、アリペイという決済手段、中小企業への金融機能、物流インフラ、そして技術的基盤としてのクラウドコンピューティングなどを整え、低取引コストでの、統合的・総合的なビジネスインフラ・事業機会を提供してきた。

なかでも金融機能については、アリババ、テンセントとも、ビジネスにおけるエコシステム(生態系)を作り上げるために有効に使っている。
アリババについては、プラットフォーム上での取引に伴う商流・金流・物流のデータに基づき、個人や企業の信用評価を行い、個人・企業への与信機能につなげ、おカネが回っていないところに対する、資金循環と活性化を果たしてきた。
テンセントについては、ソーシャルネットワークサービス(SNS)事業であるWeChat・QQを軸に、主にリアル生活サービス事業者との提携によって、「ネットとリアルの融合」によるビジネスインフラを形作ってきた。そのなかで決済機能であるWeChatペイや、伝統的金融機関との連携は大きな役割を果たしている。

 

■目下の「コロナテック」の源流である、O2O(オーツーオー)

スマホとネットの世界に、現実生活上のさまざまな生活サービスをつなぎ合わせる、いわゆる「O2O(Online To Offline)」による中国デジタルプラットフォーマーのブレイクは、米国と比べた場合のIT化デジタル化における、大きな特徴といえる。またこのブレイクが、いわゆる新型コロナウイルスの感染拡大抑制に貢献した「コロナテック」の源流ともいえる。

2015年に出された「中国製造2025」と「インターネット+(プラス)」は、成長著しいインターネットサービスと、非効率なまま残っている伝統的な産業を結びつけ、企業の効率化そして産業再構築をはかる政策である。なかでも金融の再構築というのは非常に大きな重点になっていて、上述のテンセントと伝統的金融機関との連携の例も、この文脈で説明できる。

 

■デジタルプラットフォーマーをどう扱うか、という中国内政的課題

今後の展開について。デジタルプラットフォーマーが経済的影響力を高める中、これを政策上どう扱うかは中国でも争点になっている。
モバイル電子決済は、主要民間企業(アリババ、テンセント、銀聯)に競争させながらイノベーションを進めてきている。過去の航空・通信といったサービス産業政策においても、市場が形成された次には、行き過ぎた部分を規範化する動きが出て、最終的には強い3社程度に、自主的に国家インフラとして機能させ国際競争力を付けさせる、という動きがみられ、これは中国の産業政策の特徴といえる。

ただ、プラットフォーマーとしては成長して経済社会への影響力が強まると、政府による管理・規制が強まるというジレンマを抱える。
今回のコロナ対応で、中国が先行できた要因の一つは、実名制で個人がデジタルプラットフォーム上で認証される特徴があることだ。そこに画像認識、音声認識等が加わり、様々なシーンで個人が特定され、更に行政サービスを含めた連携ができていることが、「一人一人の市民の健康状態を赤黄青で可視化して行動制限できる」ような、感染防止・経済再開に向けた緊急対策で、非常に生きた。

今後さらに、デジタルインフラの建設を進めていく中で、政府主導が強まるのではないかと想定される。また、政府が進めようとしているデジタル人民元が、アリペイやWeChatペイと実質的に競合関係になり得る可能性も有る。

これまで個人、企業の困りごとを解決してきたプラットフォーマーの競争力がどう影響受けるか、そうしたなかで中国のデジタル化が健全に成長して全体的な競争力を保っていくのか、がカギとなってくるといえる。

 

 

2)「クラウドサービス、デジタルプラットフォーム、金融」 (岩田委員)

 

■クラウドサービスの地政学 ~アメリカが真ん中、欧州は右、アジアは左~

クラウドサービスの事業者の世界ネットワークは、米国が中心で、そこから欧州およびアジアを結んでいるものといってよい。(例:https://blog.doit-intl.com/the-truth-behind-google-cloud-egress-traffic-6e8f57b5c2f8) これはベースとなるインターネットが米国発祥で、その情報流通も米国と欧州、米国とアジア、といった流れが中心になっていることによる。
従って、クラウドサービス事業者も、大西洋そして太平洋を何本もの大容量海底ケーブルで結び、米欧亜の主要都市近辺に大きなデータセンター・接続ポイントを設けて、全世界にサービスを提供する、といった作りになっている。

中国のプラットフォーマーに関しては、香港付近などから主に、海底ケーブルが陸揚げされ、中国国内に繋がる形になっている。
中国から先を見ると、シンガポールそしてインドとつながっていくため、中国は少なくとも、米国を中心としたインターネット世界の周縁にあるという状況がある。
従って、中国のデジタルプラットフォームサービスを、世界で使っていくということになると、左端のアジアから、どこまでを太いケーブルでネットワークしていくか、という見方が必要だ。

またこのクラウドサービスの仕組みだが(例:https://ecl.ntt.com/documents/quick-start-guide/rsts/pattern_4/model_c_cent_SV.html)、大きな特徴としては①ファイアウォールやロードバランサーといった、外から入ってきたデータについて不審なものを弾いたり、中に入ってきたものを適切に流したりする仕組み。②Webや会計システムなど、用途ごとにサーバーを立て、それぞれに最適にデータを流していく、という2つがある。こうした仕組みが世界中に横につながっているのがクラウドサービス、といえる。

 

■Big Tech(デジタルプラットフォーマー)の勢力図 と 金融ビジネスとの関連性

「デジタルプラットフォーマー」という言い方はいわば和製英語で、英語ではBig Techと一般的に呼ぶが、2018年の企業価値ベースのランキングを見ると(https://www.visualcapitalist.com/visualizing-worlds-20-largest-tech-giants/)、米国のアップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、フェイスブックが5位までを占め、続いて中国のアリババ、テンセントという順番だ。
なおトップ20ベースで見たとき、2013年時点では日本、韓国、ロシアも含まれていたが、2018年では米中の2か国に絞られた状況がある。

米国のBig Tech(GAFA)についても、特にグーグル、アップルは、同一プラットフォーム上に各種サービスを提供しており、先ほどのアリババ、テンセントと相当近い存在だ。
またアマゾンはアリババと同様、電子商取引サイトから始まったが、今では冒頭お話ししたクラウドサービス事業者として世界ナンバーワンのAmazon Web Services(AWS)を持ち、そして金融機能も持つ状況。また去年仮想通貨リブラで有名になったFacebookは、テンセントと同様、お友達をつなげていくビジネスモデルから始まっているが、そこから金融につながってきている。
具体的にはグーグル、フェイスブックは支払手段が今のところ中心。アップル、アマゾンはそれに加えて保険やクレジット貸付もやっていくところ。
また中国でいうテンセントと同様、柔軟に伝統的な金融プレイヤーと組んでいく側面もある。(https://www.fxcintel.com/research/analysis/how-big-tech-could-change-the-cross-border-payments-industry)

 

■Big Techと地政学

最後に、Big Techと地政学に関する最近1年ほどからの論調を2つご紹介したい。

1つはインターネットの草創期からあるWiredという雑誌から(https://www.wired.co.uk/article/big-tech-geopolitics)。
"Big tech is now a geopolitical force - and that should worry us all"というタイトルで、「グローバルデジタル通貨、過激派によるプロパガンダの拡散、タックスヘイブン活用、少数派に対する政治的暴力、米欧政府へのロビイング活用」等への懸念、「AIの支配と量子の覇権をめぐる世界的な戦いの加速が、世界をフラットでなく、つながりの薄い世界にする可能性」につき示唆している。

もう1つは、米国シンクタンクのBrookings研究所から(https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2019/07/31/from-the-iphone-to-huawei-the-new-geopolitics-of-technology/)。
"From the iPhone to Huawei: The new geopolitics of technology"というタイトルで、「民間企業、州、またはユーザー自身が個人のデータに対して所有権を持っているかどうかの決定は、世界経済の将来と地政学に多大な影響を与える」ことを示唆し、世界に3つのアプローチがあることを示している。①Big Techのデータ保持(米国)、②市民権と消費者権利優先(欧州)、③政府が国民のデータにより多くアクセスできる国家支援の技術競争(中国) そして、こうしたアプローチの違いは、グローバリゼーションの後退をもたらしうるものと示唆するところだ。

 

以下中・議論編1に続く

 

2 日時等:令和2年6月30日(火)10:00-12:10 (ウェブ会議により実施) 

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者

 

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