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2020/10/12
「デジタル時代の国際リスクレジリエンス~保険と協調~」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、行動リスク心理学を専門とされる稲葉緑研究委員(情報セキュリティ大学院大学准教授)、損害保険をアカデミック・実務の双方で見て来られた桑名謹三先生(関西大学社会安全学部准教授)、ならびに、災害等の情報データ活用を専門とされる、澁谷遊野研究委員(東京大学情報学環特任助教)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】に続き、【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちらをご覧ください。

 

 

1 議論

 

■主な論点1:防災・保険とデータ蓄積

 

〇今回のコロナにおいては確かに、Google/Appleや、米大学を中心とした世界的アカデミックネットワークなど、大きな組織からのデータ共有が目立った。ただ一方で、台湾のマスク在庫情報のように、ボトムアップで作られたデータ共有の仕組みもある。
勿論、東日本大震災の時から比べると、目下のコロナ禍においては、ソーシャルメディアの拡がりが確実にある。しかしそこをベースとしたボトムアップ型の発信というとまだまだ課題となっているし、データ活用におけるリンケージについても多々課題がある。
そこには、課題や機能を総合的に横通しでつないでみていくことも含まれると共に、そうしたボトムアップ型のデータ収集・連携の仕事に価値を感じていただき、寄付金制度の充実を含めた財政的サポートを強化するような体制の整備課題も含まれるのではないか。

 

〇データの地域偏在の背景として。データ過疎地には、社会的課題と(データ収集の上での)経済的インセンティブとが、うまく合致していないところが1つ大きいと思う。更にデータが収集されていたとしても、プライバシーの観点からそれをどう活用すればよいか、検討して踏み出せていないところも多いのではないか。
またビッグデータが社会問題課題を解決できる一方、既存の社会構造の課題を再生産してしまう側面、更にソーシャルメディアで発信できない(発信しない)ところに本当の課題がある、という側面への配意も必要。

 

○損害保険の世界は、(保険に関連する災害・損害等)データを集めて、モデルを回して、保険料の値段を決めて、販売する、といったビジネスモデル。このIT化競争が従来分野でも最先端分野でも進む。
こうしたなか、世界的なデータ蓄積という観点では、再保険会社間の弱肉強食の争いの中、グローバル上位の欧米再保険会社にますますデータが集まっていくのが実情。モデルを組んでシステマティックに手掛ける企業の(交渉・決定における)優位性が極めて高い。
また、再保険等で、保険会社間のリスクシェアリングの仕組みを立ち上げるときに、損害の傾向(まさにデータ分析)などを踏まえた駆け引きがある。そこでいったんできた仕組み(算定等のルール)が、参加者万人に平等なものとは限らず、結果、「損得」「勝負」の固定化が発生しやすい。

 

〇データはあっても、なかなかリンクが出来ておらず、総合化して見えていない、という側面がある。そうしたなかでは、データの「キュレーター(博物館・美術館等の学芸員)」もしくは「(図書館の)司書さん」に相当する役割を果たす人材を日本で育成していくことが、ビジネスの観点を含めて、大事なのではないか。

 

 

■主な論点2:日本にとっての今後の国際的チャンス

 

○東日本大震災を契機に、国連防災世界会議などの場をはじめ、日本の防災取り組みに対する世界アピールは高まっている。日本の防災ノウハウ提供に対する途上国からの感謝も高く、また日本は世界銀行に防災関連の幹部人材も含めて送り込むことが出来ている。
今後は、この動きを引き続き加速していくと共に、自然災害の相対的に少ない先進国に、デジタル活用による新たな協力可能性を含めて、いかにアピールをし、先行的な仲間づくりをして固めていくかが大切。

 

〇国際的災害への保険活用については、世界銀行でパンデミック保険を立ち上げたときの日本のイニシアティブなどを踏まえると、今後も、地域差異を踏まえた国家間調整を行いながら、日本が最適な国際保険制度づくりをリードしていく、という方向性は有り得るのではないか。
但し、再保険マーケットが欧米等有力再保険会社間の激しい国際競争となっている事に鑑み、彼らの戦略やビジョンを踏まえたうえで、日本としての儲けを確保するインセンティブ等の仕組みが入った上でないと、(産業界をも含めた)日本の実質的な立場を強めていくことは難しいだろう。

 

 

2 日時等:令和2年9月30日(水)13:30-15:55  (ウェブ会議により実施)  

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか

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