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2020/11/16
「技術イノベーションと国際連携・協調をめぐる課題」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、伊藤伸研究委員(東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授)、森直子研究委員(機械振興協会経済研究所研究副主幹)、ならびに、吉田悦子研究委員(大阪大学知的基盤総合センター特任研究員)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】に続き、【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちらをご覧ください。

 

1 議論

■主な論点1:イノベーションと技術管理(大学視点)

 

〇大学のリスク管理は、かつての教員中心から組織へと移り変わりつつあるが、やはり現場では、個々人の取り組みに依拠する部分が小さくない。
リスク管理の実務を中心となって担うURA(リサーチ・アドミニストレーター)のスキルについて、現行スキル標準は2014年に作られたものだが、輸出管理等のリスク管理の視点がまだまだ十分でないように思える。URAのスキル向上は非常に重要と考えられ、現在、文部科学省や業界団体など関係者がURAの公的な能力認定制度を近々に立ち上げるべく、検討が進められているところだ。

 

〇これまで大学の管理状況起因で、大きな技術輸出問題として取り上げられた事例としては、2009年に東北大学のイラン人留学生受入れに関して、新聞報道により外為法違反の疑いが指摘されたことがあった。核兵器開発への流用が懸念されてのこと。
目下の米中対立等による、共同研究の難しさなどに関連した事象は、顕在化したものは出ていないが、困りごとがあってもそれが詳らかになっていない可能性も想定できよう。

 

■主な論点2:イノベーションと国際標準化(政府・産業視点)

 

○各国際規格の国際標準化戦略については、かねてより日本国内でも議論がされている。ただ、これを(国際潮流や社会課題、企業活動の拡がり・多層化等に合わせて)より広い領域に広げて戦略的に考えるとなった場合に、所管各省の立場を乗り越えた議論が十分なされてきていない側面はある。
過去における実際の国際展開においても、日本発で提唱したものが、実活用できるものになっているかどうか。また政策的な後押しがどの程度あったかどうか。企業をどの程度巻き込んできたかどうか。そうした本気度で判断されやすいものかもしれない、と感じる。
 

〇今後の戦略的な国際標準化展開・交渉に資するような人財、すなわち、複雑に相互連関する重層的なシステムを貫くルールを形作る構造(アーキテクチャ)にも対応できるような「産業デザイン国際人材」については、学校教育、もしくは社会人教育といった場のみでは、容易に育成できないだろう。文部科学省のみならず、省庁横断的、そして関連業界団体も巻き込んだ議論が必要だ。
 

〇国際標準に向けた戦略・人財づくりについては、10年刻みの戦略が必要。成果の見極めに時間がかかるので,評価が短期の人事サイクルにはまらない。
20年ほど前、韓国や中国が修論発表のような標準提案を山のようにやっていたときがあった。当時ひよっこだった彼らは現在世界の一線で活躍しており、これは長い目の人材育成戦略があったと感じる。逆にこうした取り組みが足りていないのが今の日本の課題ではないか。企業レベル単独では対応できないため,総合的な国家施策で教育しないといけないのではないかと感じる。

 

 

■主な論点3:AIと倫理

 

○欧州では、AIを巡る議論は、技術的な必要性のほか、憲法上(権利上)、そして倫理的な部分からのものなど、様々なものがある。特に、倫理的な面でのスタンスを重視したうえで、他の面についても考える傾向がある。またAIと人間との利益配分をアプローチの中心として、倫理面含めて考えてらっしゃる方もいる。
フランスでは、2018年に、数学者出身の政治家、セドリック・ヴィラニが中心になってまとめたレポートがあり、AIの国家開発戦略・意義と共に、AIのデザインにおける倫理およびガイドラインの重要性に触れている。このレポートはEU全体の取り組みにも影響を及ぼしている。

 

〇AIに若し発明権が認められた場合、恐らく、アルコリズム設計に関与した者にベネフィットが帰属することになるのではないかと考える。複数の会社が関与して開発した場合は、その配分などが課題になるだろう。

 

 

■主な論点4:イノベーションと安全保障

 

○知的財産の「Open」と「Closed」のバランスが鍵となるが、一意な答えは難しい。

 

〇イノベーションと安全保障について、過去の歴史経緯(米ソ冷戦終結後の東欧や、中国の市場経済への参入を含めて)を踏まえた実証研究も発展の余地が大きいと感じる。

 

〇国際標準化における国際機関での枠組みでは、各国がオープンに平等に参加できる仕組みなので、逆に特定国の安全保障に個別配意することが難しい。

 

〇知的財産に関する議論が深まる欧州でも知的財産とオープンイノベーションとのバランスのとり方は議論されているが、新しい時代の特許制度を含めて、これまでの根底を覆すようなことを提言されている方はまだほとんどいないかもしれない。

 

 

2 日時等:令和2年10月26日(月)14:30-16:30 (ウェブ会議により実施)

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか

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