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2020/11/16
「ICT(情報通信技術)の国際コラボレーションのかたち」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、大道英城研究委員(株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)常務取締役)ならびに、松下奈美子研究委員(名古屋産業大学 現代ビジネス学部 准教授)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】に続き、【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちらをご覧ください。

 

1 議論

■主な論点1:官民連携でのICT海外展開を成功させるためのポイント

 

〇各国地域の取引先事業者(データセンタを例にとると、電力会社、インターネットプロバイダ、その他サービス事業者等)との、産業エコシステム(生態系)構築が重要。
またそのためにも、インキュベーションの段階と、その後のビジネスの成長段階に応じて、各種ファイナンス支援ツール等をうまく引き継ぎながら大きく育てていく、という「継続的・包括的な支援」への志向・取り組みは高まっている。

 

〇ICTのサービス産業化の時代においては、ハードウェアだけの強さだと、サービス事業者に対する一サプライヤーとなり、その納入先の業績等に自社業績が左右されやすくなるリスクがある。これを回避する戦略として、自社製品を使ってもらってサービスを仕立てられるような能力のある海外事業者を買収して、自社競争力を高めていきたいというニーズの高まりを感じる。

 

■主な論点2:官民連携でのICT海外展開における、日本の優位性と課題

 

○データセンタや海底ケーブルをはじめとしたICTインフラには優位性があり、特に、技術力・信頼性の高さと運営・保守能力に強みがある。一方で海外の地域によっては日本が得意とする工法等が、その地域のニーズやコスト感覚に馴染まず、コスト競争力で劣後することもある。
一方、ICTサービスは、世界的にプレイヤーの盛衰が激しいが、日本企業の強みである、産業センサーなどを使ったIoTネットワークサービスなどの分野で、スモールスタートできるような事業の海外展開支援ニーズにもスピーディに対応していくことが1つの勝機

 

〇日本企業の自前の強みを活かすには、それぞれの企業が得意とするセグメントで戦っていくことも足元では重要。他方で、他社製品・サービス含めたコーディネート力を高めていく必要も。
例えば、いま国内外でモデルプランが増えてきている「スマートシティ」についても、日本の強みを生かせる重要取り組み分野の1つだが、それを構成する個々のICTサービスへの取り組みだけでなく、グランドデザインを始め、プロジェクト全体のコーディネートをどう行っていくかが戦略上の課題。

 

〇日本のインフラは質は良いが価格も高い、と見なされてしまう傾向について。日本企業にとっては、日本(および先進国等)での市場規模が依然として大きい。(輸出対象国の事情よりも)そちらに求められるものを優先する結果、質は高いがイニシャルコストもかかるので、国・地域によっては採用が難しいとなる傾向は、ないとはいえないのではないか。

 

〇日本の海外に対する強みは今や資金力。ただ技術者が一緒に出ていくとは限らず、技術者の国際化が課題。またSDGsをビジネスとして捉えた投資視点も不足。
これらをカバーしうる人材については非常に苦慮している状況。ICTの技術、海外ビジネス環境、更にはファイナンスがわかり、かつ社会課題解決にも意欲を持ち・・・といった要素を兼ね備えた人材は多くはないのが現状で、いかにして育て上げていくかが課題。

 

■主な論点3:ICT海外展開と国際安全保障

 

○ソフトウェア開発の海外委託(オフショアリング)について、過去においては、機密情報が流出するような事象、または二国間関係の政治関係悪化などによって、雇用調整弁とされてきた側面もあるのではないか。また産業的な結びつきの変化が、その国の技術者の海外活躍希望先の変化に影響を与える。

 

■主な論点4: ICT技術者の国際人材交流強化にあたっての課題

 

○90年代日本に多く渡航した米国人技術者が減少に転じた要因として、日本のIT開発現場の(過酷な)環境が合わなかった、という状況があると認識。この背景として、日本における、レディメイドのパッケージソフトを使いたがらない文化による、個別企業専用のシステム作り込み強化が存在。
現在もこの状況は根底からは変わっておらず、世界に通じるようなスーパー技術者が続々と日本にやってくるようなことは難しいだろう、とも感じる。

 

〇日本への留学生から日本での外国人ICT技術人材活躍につなげる、といったことを考えたときに、産業の伸びしろとして母国のほうが強い状況も往々にあるにもかかわらず、「日本が好きだから」来てくれる留学生も増えている。そうした彼ら・彼女らの気持ちを大切に、迎えて育てていくことが大切。
ただビザについては就労ビザだけに、女性がワークライフバランスをとって日本で働き続けるには必ずしも適していない側面がある。

 

〇海外のIT技術者の日本での起業について。10年20年前には相応にケースがあった(日本に渡航した技術者が、雇用継続の難しさと、本国での不景気も手伝い、日本での起業に至った)。 現在は本国のIT景気が日本を上回る状況が生じており、大きく変わっているだろう。

 

〇近年、社会問題を解決したい、ということで、留学生・研究者等が日本に集まってきている。日本への期待が大きく変わってきているなか、資金面や制度面を含めて、それに必ずしもうまく対応できていない状況を感じる。

 

2 日時等:令和2年10月29日(木)12:45-15:15 (ウェブ会議により実施)

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか

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