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経済・社会

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2014/10/20
財政の持続可能性を踏まえた世代会計の分析

北浦修敏(主任研究員)による報告を掲載しました。(※2016年1月修正)
「財政の持続可能性を踏まえた世代会計の分析」(PDF)

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(要約)
本稿では、様々な出生率による人口推計の下、財政の持続可能性を考慮した世代会計の分析を行った。本稿の主な結論は以下の通りである。


第1に、自然体シナリオ(現在の政策の継続を前提とするシナリオ。出生率1.35のケース)では、現在の若年世代を代表するゼロ歳世代は1318万円の受益超過(生涯受益額8880万円、生涯負担額7561万円の差。生涯所得比7%の受益超過)となる。過去の分析では若い世代は負担超過とされていたが、2012年度に大きな公的債務残高が積み上がっていること、財政赤字を出し続けること等を踏まえると、若い世代でも受益超過となっている本稿の推計結果は妥当なものと考えられる。ただし、公的債務残高の対名目GDP比が発散するため、現在の政策を継続することはできない。


第2に、財政の持続可能性を確保するように財政再建を行う財政再建シナリオ(出生率1.35のケース)では、現在のゼロ歳世代は965万円の負担超過(生涯受益額7451万円、生涯負担額8416万円の差。生涯所得比5%の負担超過)となる。
ただし、仮に人口安定化で財政収支が均衡化したとしても、現在の受益を維持するには、ゼロ歳世代は生涯所得比で少なくとも2.7%の負担超過を負う必要がある。これは負担が近い将来で発生し、受益は高齢期に発生することによる。


第3に、現在の世代が将来に先送りする公的債務による将来世代の超過負担額は、自然体シナリオ(出生率1.35のケース)では、総額2134兆円(一人当たり4249万円、生涯所得比24%の負担超過)、財政再建シナリオ(出生率1.35のケース)では、総額288兆円(一人当たり572万円、生涯所得比3%の負担超過)となる。財政再建は将来世代の負担を劇的に軽減する。また、財政再建シナリオではゼロ歳世代と将来世代の格差は概ね均衡する。


第4に、財政再建シナリオを自然体シナリオの現在の各世代の超過受益額と比べると(出生率1.35のケース)、現在のゼロ歳世代で2284万円(1318万円と965万円の和)、1年当たり27万円(受益減17万円、負担増10万円)の負担の増加となり、高齢者(65歳以上の者)平均で633万円、1年当たり45万円(受益減39万円、負担増6万円)の負担の増加となる。若い世代ほど生涯負担の増加の総額が大きくなる理由は、①将来に向けた労働期間が長く、大きな税負担・社会保険負担の増加を引き受けることになること、②受益は、高齢期の社会保障給付とともに、若年期の教育サービスからの受益が大きく、これらも削減されること、等による。また、高齢者の1年当たりの負担の増加額が大きいのは、①今回の推計では、社会保障支出以外の支出を削減する余地が小さいことから、財政再建による政府支出の削減は全ての支出で均等に行うと仮定しており、規模の大きい社会保障給付の削減額が大きくなっていること、②高齢者は近い将来に受益を受けるため、割引現在価値が大きくなること(若年層も同様に社会保障給付は削減されるが、遠い将来から金利で累積的に割り引かれることから、現在価値は小さく表示されこと)による。


第5に、出生率の改善は、ゼロ歳世代の超過受益額(及びその生涯所得比)や将来世代への負担の先送り総額には大きな影響を与えないが、実質将来人口が大幅に増加することにより、将来世代の超過負担額は大幅に低下する。ただし、出生率を改善するだけでは、財政の持続可能性は確保できない。財政の持続可能性を確保するには、ゼロ歳世代でみて、生涯所得比5%程度の負担超過の水準まで財政再建を進める必要があることは、様々なシナリオ(財政再建シナリオ、公的債務安定化シナリオ①及び②)で共通である。


最後に、財政再建シナリオ(出生率1.35のケース)と少子化対策・70歳年金支給シナリオ(出生率2.07のケース)を比べると、将来に向けての超過負担の変化幅はどの世代でも400万円程度であり、ゼロ歳世代の超過負担額の生涯所得比は財政再建シナリオで5%、少子化対策・70歳年金支給シナリオで6%の負担超過となる。生涯所得に対する超過負担額の割合が殆ど変わらないとすれば、政策(少子化対策、70歳への年金支給年齢の引上げ等)により、積極的に出生率を高め、活力のある若々しい将来の日本社会を実現することが、将来世代の親となる現在世代の若い世代にとっても望ましいことと考えられる。


筆者の分析結果は、最近の代表的な先行研究と比較して概ね妥当なものと考えているが、世代会計の分析結果は、成長率、金利、出生率の動向等を左右され、また、政府支出の削減と増税をどのように組み合わせるかにも依存する。今後の財政再建に当たっては、透明性を確保するとともに、説明責任を果たす観点から、どの世代がどの程度の負担増を覚悟する必要があるかについて分析を行う重要性が高いと考えられる。政府や民間のエコノミストの間で、さらに丁寧な分析が実施されることが期待される。

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