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外交・安全保障

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2017/03/23
インドネシアでの国際会議「東アジアの海洋安全保障――地域的、実務的協力」(世界平和研究所・インドネシアCSIS共催)

1 日 時

  2017年2月13日(月)~2月14日(火)

2 場 所

ジャカルタ インドネシアCSIS 講堂


3 実施経緯

世界平和研究所では、201512月に発表された「東アジアの海洋安全保障に関する中曽根提言」を具体化するための検討を行うべく、防衛省・自衛隊及び海上保安庁の元幹部並びに学会有識者からなる海洋安全保障研究委員会を発足させ、20163月から検討を開始、報告書「海上における危機管理-現場からの緊急提言-東アジアの海洋安全保障に関する中曽根提言を受けて」を取りまとめた。20161028日には、国内有識者4名を招聘し、本報告書の発表とともに提言内容に関するシンポジウムを開催した。当国際会議は、南シナ海において海上権益に関連した緊張が高まる中、ASEAN諸国、中国(米国よりは予定せるも個人的理由で直前に不参加となる)からの関係者・有識者の参加を得て、危機管理と能力構築を主柱とする右提言内容を紹介すべく、ASEANの大国インドネシアの代表的シンクタンクであるCSISと共催で実施することとしたもの。なお、本年はASEAN創立50周年にあたることから、在ジャカルタASEAN日本政府代表部の参加・支援を得た。


4 主要参加者

(1)世界平和研究所 海洋安全保障研究委員会:

委員長  :齋藤 隆  元統合幕僚長(共同議長)

委員長補佐:福本 出  元海上自衛隊幹部学校長 

委員   :佐藤 考一 桜美林大学教授

委員   :鈴木 洋  元海上保安監

委員   :德地 秀士 元防衛審議官

委員   :平田 英俊 元航空自衛隊航空教育集団司令官

(2)インドネシアCSIS

Philips J. VermonteCSIS所長)(共同議長)

(3)招聘者

Kresno Buntoro(インドネシア海軍大佐、海洋法課長)

Collin Koh Swee Lean(シンガポールRSISリサーチ・フェロー)

Lucio Blanco Pitlo III (フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学特任教授)

Mohamad Soharto Bin Mat Said(マレーシア海上法執行機関中佐)

Ha Anh Tuan(ベトナム外交アカデミー、海洋政策主任)

Zheng Anguang(郑安光)(中国、南京大学准教授)

(4)会議参加者等

ア ASEAN日本政府代表部

須永和男(ASEAN日本政府代表部特命全権大使)

中村 亮(同公使兼在インドネシア日本大使館公使)

岡野結城子(ASEAN日本政府代表部公使参事官)他

イ インドネシア政府

Dewi Fortuna Anwar(インドネシア副大統領顧問)※公開セッションのみ

Arif Havas Oegroseno (インドネシア海洋担当調整副大臣)※基調講演

Ali A.Wibisono (インドネシア大学国際関係学科講師)他

ウ 在インドネシア外交団

Suh Jeong In (韓国ASEAN代表部特命全権大使)

オーストラリア大使館、中国大使館、イタリア大使館

(5)事務局

インドネシアCSISRocky Intan, Andrew Mantong

世界平和研究所:嘉治美佐子、高山裕司、大久保明


5 公開セッションの議事概要

(1)基調講演(Arif Havas Oegrosenoインドネシア海洋担当調整副大臣)

中国の台頭やトランプ新政権の誕生による米国の外交安保政策の変化の可能性、ロシアの海軍演習等、南シナ海をめぐる情勢の不確実性を概括するとともに、この地域に一路一帯構想、AIIB、インドネシアの地域構想、日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo-Pacific Strategy)」等の各構想が競合していることを例に、東南アジアの戦略的重要性を説明。次いで、南シナ海の紛争については、複雑多種な要因を理由に「解決する(settle)」は困難であり、各国が協働して危機を「管理する(manage)」ことの重要性を強調。

また、地域の課題として、安全保障だけでなく、プラスチックによる海洋のゆっくりとした汚染、生態系の破壊を「スローモーション カタストロフィ」として紹介し、各国の海洋安全保障における恊働を呼びかけた。安全保障面では、CUESの効果は限定的であり、信頼醸成措置の方策を考えるべきとした。

課題への対応について、ASEANが指導力を発揮する必要性につき言及し、ASEANが米中の対立を緩和、均衡させ、協業関係をもたらすことを追求すべきとの認識を明らかにした。気候変動、環境保全、食糧安保等につき、各国が協力できる可能性に言及し、具体的な提案、イニシアティヴを打ち出し連携すべきとした。トラック1、1.5、2等様々な会合があるが、政府レベルでこれをフォローアップできるような実務的協力が重要と訴えた。

(2)公開セッション1(議長:齋藤委員長)

德地委員による委員会報告書の概要報告(非公開セッション3と同様)及び他の委員からの補足を行った。

(2)―1

 德地秀士委員より、委員会報告書「海上における危機管理――現場からの緊急提言――東アジアの海洋安全保障に関する中曽根提言を受けて」について概説した。今次報告書は、海洋安全保障に関する危機管理と能力構築に関する提言を二本の柱とし、地域各国が海洋安全保障に関する情報共有と意見交換を行い、多国間協力を推進していくための常設機関として「OMSEA(東アジア海洋安全保障機構)」の創設を説く内容となっている。

 現在の海洋安全保障上の喫緊の課題は、以下の5点。

①適正な海上法執行活動と危機管理の枠組みの構築: 公船の民間船舶に対する法執行活動の中に過激ともとれる例があることや、法執行機関の間におけるコミュニケーションの問題があることから、まず、海上法執行における共通の行動規範についての理解の育成、相互のコミュニケーションの仕組みの策定、信頼醸成を通じての危機管理の枠組みの構築が重要。

②航空機による偶発的衝突の防止: 空域では法執行機関がなく、軍が法執行活動を実施しており、偶発的衝突の危険が課題。

③法執行機関の能力構築: 適切な法執行には国際法や警察比例の原則といった依拠すべき原則があり、これらを重要なルールとしていくための教育が必要であり、また、海上法執行機関相互の共通通信手段が必要である。海上法執行機関がより高い能力を構築することで、紛争のエスカレーションを防止する「緩衝材」としての役割が果たせる。

④海洋状況認識と各国の連携強化: 海洋の状況認識の共有が重要。これは危機管理だけでなく人間の安全保障、すなわち災害対応、環境問題、持続可能で安全な漁業等にも資する。

⑤法執行機関と海軍の関係: 海軍と海上法執行機関という組織目的と役割の異なる組織につき、関係を明確化するとともに、後者が「緩衝材」機能を果たせるようにすべきである。

上記を踏まえ、以下2点を提言する。

提言1:危機管理

①警察比例原則の遵守: 海上法執行機関による民間船舶への対処時、過激な法執行とならないよう可能な限り抑制的に権限を行使する。ASEAN諸国がMLEAによる法執行のガイドラインの見直しを実施しているが、これをさらに進展させていく必要がある。

②公船間のコミュニケーション手段の確立: 海軍間のCUESの海上法執行機関への適用が適切ではなく、また、公船の法執行が適切に実施されていないケースも見られることから、現場の公船間におけるコミュニケーション手段が必要であり、右により誤解を避けることが可能ともなる。

③軍艦及び軍用機間の偶発事故防止協定締結: 海軍間でCUESは機能しているが、すべての航空機に適用されるわけではなく、法的拘束力もないことから、公海上空において適用され、法的拘束力を持つ偶発事故防止協定の締結を追求すべきである。日米両国が中国との間でこれを締結し、これをモデルとして議論を進めるべき。

④海上民兵による運航される漁船に関する情報交換: 海上民兵については、漁船が当局の指示を得て、準軍/準法執行機関として活動しているが、その詳細は不明である。海上民兵には対応を困難にするいくつかのカテゴリーがあり、海上民兵の採用国はその詳細を明らかにすべきである。また、各国も情報交換と連携により、この問題に対応すべき。

提言2:能力構築

①海上法執行機関の能力構築: 軍の能力構築よりも優先度が高い。コミュニケーション手段、ハードウェアの改善、法的教育、海軍と海上法執行機関の情報交換の推進が重要課題である。

②国際法に関する共通理解: 国際秩序形成の前提として、共通理解の促進が重要。

③海洋状況認識能力の強化: 20143月のマレーシア航空370便の墜落事故は空域におけるMSAの必要性を示すもの。OMSEAのような多国間機関が機能を果たせるまでは、日米のような能力と意思を持つ国が主導的な役割を果たし、調整を図って既存の枠組みを利用していく必要がある。また、このような取り組みは、政府、国際機関によるものだけでなく、民間にも拡大していくべきである。これらを実施する上では、2国間、多国間での調整の場が必要であり、ADMM+のような既存の枠組みの活用を提唱。また、災害救援など海洋安全保障以外の共通の安全保障課題も考慮していく必要がある。

以上の提言に対する日本の取り組みは以下5点。すでに実行されている。

①政府一体となったアプローチ: 自衛隊及び海上保安庁の能力・知見を政府として共有しつつ、防衛省の能力構築支援、外務省のODAをうまく調整する必要がある。

②能力構築支援の制約緩和: 例えば受益国からの対価なく支援を可能とする法的枠組みについて、現在の国会で審議される可能性がある。

③海上保安庁による協力: アジア各国の海上法執行機関の若手幹部職員を対象として海上保安庁と政策研究大学院大学が共に開設した「海上保安政策課程」は一例。

④防衛省自衛隊による支援: 日本とASEAN各国との2国間協力だけでなく、米豪を巻き込んでのベトナムへの潜水医学支援のような、多国間協力を今後とも増進していくべき。

⑤人的資源の有効活用

東アジアの海洋安全保障のための多国間機構の創設を検討するに当たっては、EASARFADMM+等の既存のフォーラムを用いるなど、ASEANの中心性が重要である。日本政府は、このプロセスを支援し、初期の段階から関与していくべきである。

(2)―2

   これに補足して、佐藤委員から、日本としては、ASEANと中国の海洋安全保障への努力を支援するものとして外務省も共有する、海上における紛争等に関するASEANの情報共有センターの創設が一案として提示された。

   鈴木委員からは、海上法執行機関にとっては、その任務である人命救助の根底にある人道主義、法執行手続における国際法の遵守を基礎、および警察比例原則が最も重要であることを強調した。また、警察比例の原則が、海上権益に関する紛争のエスカレーションの予防、抑止にも寄与するとした。各国の海上保安機関の協力推進の場として、アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)について紹介した。

(3)公開セッション2(議長:Vermonte所長)

現地公館、有識者やプレスを含めた総勢約50人の参加の下、日本の研究委員会の報告書に対する各国参加者よりのコメント、意見交換が行われた。会場の参加者からも提言とその具体性に対する高い評価の発言が得られた。日本が実施・提唱する政府一体となった支援に対しては、また、インドネシアにおける現状として、BAKAMLAや漁業省や沿岸警備隊など複数の海洋安全保障に係る所管官庁があり、各機関に能力向上のニーズがあって支援を要望している状況がある中で、各国、各機関からの様々な援助を最適にマッチングすることの困難性がインドネシアの有識者から言及され、同国における問題意識が披露された。また、インドネシアの参加者からは海上法執行機関の法執行に係るガイドライン策定の提案もなされたが、一方で、地域的な取り決めを策定しようとする場合に、誰がそれを主導するのかについての問題意識に関するコメントもあり、域外国主導のイニシアティヴに対するASEANの中心性についての問題意識も提示された。また、今次会議のような海洋コミュニティの関係者による交流の機会を今後も設けていくべきとの声が多く聞かれた。日本側からは、各国の海上法執行機関の活動の実態について情報共有を進めていく必要性などを改めて指摘した。また、研究委員会より、バルト海の事例を参考に、AIS(自動船舶識別装置)を活用した情報共有枠組みの可能性が紹介され、民間部門の活用を含め、今後、海洋における状況認識能力の構築をどのように具体的に進めていくかの検討が必要との認識で一致した。最後に齋藤議長より、今後も議論を深め、トラック2や1.5の協議の場を拡充させたい意向をもって総括し、会議は閉幕した。

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