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2022/04/15
4月4日に、米中関係研究会・米国新政権研究会・北東アジア情勢研究会は共同ウェビナー「ロシアによるウクライナ侵攻とインド太平洋の今後」を開催しました。

 米中関係研究会・米国新政権研究会・北東アジア情勢研究会は、1)ロシアによる軍事・外交の今後の見通し、2)欧州諸国、中国、韓国・北朝鮮、米国の見方、3)ウクライナでの戦争がインド太平洋地域に及ぼす影響をテーマに、各地域の政治・外交に詳しい第一線の研究者を招いて議論しました。

日時:2022年4月4日 17:00~18:30

テーマ:「ロシアによるウクライナ侵攻とインド太平洋の今後」

モデレータ:川島 真 (当研究所研究本部長/東京大学大学院教授)

パネリスト:兵頭慎治 (防衛省防衛研究所政策研究部長)ロシアの視点から

      細谷雄一 (当研究所上席研究員/慶應義塾大学教授)欧州の視点から

      江藤名保子(当研究所客員研究員/学習院大学教授)中国の視点から

      西野純也 (当研究所上席研究員/慶應義塾大学教授)朝鮮半島の視点から

      森  聡 (当研究所上席研究員/慶應義塾大学教授)米国の視点から


 外務省はじめ諸官庁、大学、企業、マスメディア関係者から多くの参加があり、冒頭、当研究所の理事長・藤崎一郎より「専制国家は必要であれば力を行使することがあると認識すべき。ロシアが戦闘に苦戦しているという報道もあるが、大阪冬の陣の後に夏の陣があったように今後の交渉の行方を注視する必要がある」との問題提起がなされました。モデレータの川島研究部長から、各登壇者に対して以下の問いを投げかけました。

1.各地域/国はウクライナ侵攻をどのように見ているか。どのようにしたら終わるのか/どうしたら着地すると考えているか?

2.今後、世界秩序は大きく変わると考えるか。


■ディスカッションの概要は、以下の通りです。(4月4日時点)

1.各地域/国はウクライナ侵攻をどのように見ているか。どのようにしたら終わるのか/どうしたら着地すると考えているか?

(ロシアの視点)

 ロシアは、民主化の波に乗ってプーチン政権の権威主義体制が脅かされつつあるという強い懸念に加え、ウクライナのNATO加盟に反発して、ウクライナを自らの影響下に置きたいという一方的な意志を示している。

 キーウ制圧が困難になった今、停戦交渉の論点は整理されているが交渉の行方は不透明で、ロシアは協議前に戦闘で有利な立場を得ることに注力している。ウクライナ側に危害を加えられているとされる親ロ派住民の生命・財産の保護/自衛を名目に派兵して、ドネツク・ルハンスク両人民共和国の独立を承認し、東部2州を軍事的に掌握してウクライナから分離させることは、5月9日の戦勝記念日にロシア国民にアピールできる要素である。これを最低限の戦果と考えている。ウクライナ全土に対する侵攻には大義名分がなく、ウクライナ側が要求する「新しい安全保障の枠組み」や、クリミアの帰属に関しては不透明である。


(ヨーロッパの視点)

 欧州は、国によって今回のロシアによるウクライナ侵攻への対応が異なっている。大まかに①英国、②ドイツとフランス、③東欧および北欧諸国という三つのグループに分けることが出来る。英国はロシアのエネルギー資源に依存しておらず、一貫して「冷戦後の秩序はNATOがつくる」として、ロシアへの反発を強めている。ドイツは、2011年の東日本大震災をきっかけに原発を全面的に廃止してロシアの天然ガスに依存してきた。また2014年の「ミンスク2」の合意において、ドイツとフランスはウクライナの東部2州をめぐる紛争に関してロシアに大きく譲歩し、国境は動かさないが親ロシア派勢力に「幅広い自治権を認める」という協定を仲裁した。今回もドイツ、フランスが仲介の労をとる可能性がある。東欧諸国はロシアと国境を接しているため、強硬な態度を取っている。また北欧の中立国も同様であり、NATO加盟を宣言するに至った。


(中国の視点)

 中国にとってロシアとの間には、①米国との対立におけるパートナー国である、②エネルギー供給を中心とする経済協力がある、③「世界の反ファシスト戦争と中国の抗日戦争における勝利」という戦勝国の歴史認識とその後の「西側の不当な扱い」への不満を共有している、④国際社会は「多極化」し、より「公正で民主的」であるべきだとする価値観を共有する、という4つの紐帯がある。

 一方、以下の3点で双方の思惑にズレが生じている。①ロシアが「失地回復」を追求するのに対し、中国は大国として国際的に権威のある立場を目指したい。②中国は、国家主権と領土の一体性の尊重に繰り返し言及し、特に主権の尊重については「内政不干渉」を主張する際の根拠として重視する。そのためウクライナの人道危機に対する支援は行いつつ、そのロシアの責任については慎重に指摘を避けている。またドネツク、ルハンスクの「独立国家」の承認について触れない。③中国・ウクライナ友好協力条約で非核兵器国であるウクライナを核の脅威から守る、1994年の共同声明ではウクライナの安全を保障するとしており、本来はウクライナを守る義務がある。

 決着点としては、中ウ友好協力条約を放置すれば「一帯一路」関連諸国との様々な条約や協定が意味を失いかねず、中国としては形の上だけでも停戦交渉に関与することが望ましい。しかし東部2州の「独立」については承認できず、「高度な自治」程度に収めて欲しいと考えている。この点でロシアの主張と折り合わない事は自明であり、状況が変わらない限り動かないだろう。


(朝鮮半島の視点)

 韓国、北朝鮮とも現在のウクライナ情勢を、大国間の政治に翻弄されてきた朝鮮半島固有の歴史に重ね合わせ、事態の推移を見守りつつ自国の安全保障に対する認識を高めている。韓国新政権は米国との同盟を深める方向に動き、核共有に関する議論も行うだろう。朝鮮半島は南方三角形(日米韓)と北方三角形(中露朝)という新冷戦下の構造の中で、それぞれ米中対立に着目バランスを注視している。北朝鮮は国連が上手く機能していないのを見るにつけ、彼らが主張するところの「核戦争抑止力」を強化する動きに出ていると見られる。

 決着の方向性について、韓国は米国の国際的な影響力が低下するような形の決着は望んでいない。一方、北朝鮮は逆の事態が到来することを望んでいる。今後注視すべきは中国の態度である。「米国と中国が限定的な範囲で協力する可能性はないか」という点である。北朝鮮は「中国とロシアの少なくとも一方を味方にしておくことが得策である」と知っている。


(米国の視点)

 米国はウクライナへの直接派兵は行わず、軍事支援、経済制裁、NATO諸国の防衛体制を強化するという3点に集約して、ロシアに行動変容が起きることを目標としている。戦争が長期化すると見ており、エスカレーションを避け、ウクライナを支援しつつ、「ウクライナが自らに有利な条件を勝ち取れるように協力する」という態度をとることになる。ロシアの攻撃がエスカレートして、NATO諸国から「経済制裁に加えて報復攻撃すべき」という声が出るような事態は避けたい。NATOとロシアが直接衝突した時に核戦争のリスクを犯すことは難しい上、万が一そのような事態に至れば、結局中国を利することになるという判断があると思われる。米国が力を使っても良い結果はもたらさないと認識している。断固とした行動を取れないもどかしさから、バイデン大統領の支持率上昇につながっていない。資源高など経済的な不満も高まっている。事態を打開する具体策が無いため、中間選挙の結果は厳しいものになるだろう。


2.今後、世界秩序は大きく変わると考えるか。


 欧州諸国では、今回のウクライナ侵攻を受けて「インド太平洋地域より欧州地域の問題をより優先的に考えなければいけない」とする向きがあるのは事実である。一方、冷静な議論として、ロシアによる全面的勝利が危ぶまれる現在、中国の力が増大すると思われる。すなわちロシアがより一層中国に依存し、中国が強大化することによって米中対の構造が一層際立つことになるという見方である。

 米国から見ると、ロシアは深刻な脅威であり中国は重大な競争相手である。ロシアは長期的には弱体化に向かうと予想されるため、中国に焦点を絞った戦略に転換していくだろう。現時点で米軍が欧州に大規模に派遣されることにはならないので、米軍のインド太平洋シフトが大きく阻まれることはないだろう。中国との競争を意識して米国は機能分野別の連合を形成してきたが、今回の対露制裁では輸出管理という手段も使われており、テクノロジーに関しては、米国はヨーロッパとの協力関係を深め、中露との分断を深めていくだろう。

 中国は米中対立の構図は変わらないと見ている。ただしウクライナ侵攻によって欧州の一体性が高まったうえ米国との連帯を強めたことを問題視している。(経済的な痛手を受けるであろう)EUに対しては、「自主的な対中認識」を形成して中国との協力を検討するよう働きかけ、米国との分離を図った。また中長期的に弱体化するロシアの動向に影響を与え得るインドを注視している。

 韓国では、保守政権が大統領選で勝利したことによって、欧米諸国と強く寄り添う姿勢を打ち出すと同時に、自由民主主義諸国との関係強化が主張されるようになった。このウクライナ情勢は自由主義と権威主義の対立ということで、朝鮮半島の歴史と相通じるものがある。従って、進歩勢力の主張はあまり説得力を持ちえず、米国との連携を強化する外交・安全保障政策に舵がきられると思われる。一方、「米国との連携強化が北朝鮮の軍事挑発につながるのではないか」という意見が、国内から出ることも予想される。

 ロシアは、今後国際社会の中で孤立し「北朝鮮化」する可能性がある。経済制裁による国力低下、経済破綻の手前まで追い詰められ、結果としてプーチン政権の政治基盤が揺らぎつつある。そしてロシアにとって頼みの綱は中国しかなく、中国のジュニアパートナー化するかもしれない。但し、ウクライナをめぐる中露関係は単純ではない。中露ともウクライナをめぐって利害が対立する可能性がある。「ウクライナ侵攻が米中対立という大きな構図に影響を与えることはない」という意見には賛同するが、ロシアの立ち位置は米中対立という構図の中でロシアが完全に中国と同じ立場をとることになるのか、あるいは中国とロシアが距離をおくことによって、ロシアが米中対立に直接的には関わらないような立ち位置になるのかという問題については、今後も注視していく必要がある。


(了)

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