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2014/10/01
欧州安全保障協力機構(OSCE)関係者及びウクライナのシンク・タンクとの意見交換

9月10日~17日、松本太主任研究員及び福田潤一研究員が欧州安全保障協力機構(OSCE)事務局のあるウィーン及びウクライナの首都キエフに出張し、OSCE関係者及びウクライナのシンクタンク関係者や有識者と意見交換を行ったところ、概要以下の通り。


 

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1. ウィーンでのOSCE関係者と意見交換

(1)OSCEの役割と意義:OSCEは、ロシアを含む参加国から公正中立な機関とみなされており、ロシアにとっても自国の立場を正当化できるという意味で、参加国全体にメリットがあることが強調された。OSCE事務局の紛争予防センター(CPC)は、戦略形成及び運用の両面に係る組織である。CPCは紛争の監視のみならず早期警戒や国民対話などの幅広い分野を担当する組織であることが説明された。


(2)OSCEのアジアに対する適用性可能性:欧州では旧ソ連を含めて全ての参加国がOSCEの前身である全欧安全保障協力会議(CSCE)の必要性を認めていたが、アジアにはこの条件が存在していないこと、またアジアにおける安全保障上の課題が欧州とは異なり、海洋であることを考えれば、アジアにおける同種の常設機構の創設はチャレンジングである旨が指摘された。また、OSCEの経験をアジアで生かすためには、民主化や人権等の扱いをどのようにするかが問題となる旨が指摘された。


(3)OSCEのユーラシア全域への拡大:2010年のアスタナ首脳会談では、モンゴルの正式な加盟国としての参加が決定されたが、OSCEが欧州を中心とする機関であることには変わりはなく、パートナーシップの拡大が、アジアのみならず地中海方面でも参加国の意見の一致しない問題である点を踏まえると、OSCE のアジア地域への拡大は難問であることが指摘された。


(4)OSCEのウクライナでの活動の評価:現在、OSCEはウクライナにおけるロシアの動向を監視する国際社会の「目」として唯一機能しており、高く評価されている。OSCEが、ウクライナ情勢などの問題解決につながるわけではないが、OSCEがなければ事実が客観的に示されず、紛争の実態が不透明になりかねないことが指摘された。


2. キエフでのシンクタンクとの意見交換

 ウクライナのキエフでは、大統領直轄戦略研究所、ラズムコフ・センター、キエフ政府・紛争研究センターなどのシンクタンクと意見交換を行ったところ、概要次のとおり。


(1)ロシアとの停戦合意の評価:9月5日の停戦合意は、ウクライナ政府の当初の和平計画と矛盾するばかりか、ロシア側の合意違反にも揺さぶられており、長続きしないとの見通しが示された。特に受け入れ難い項目としては、「東部での戦闘に拘わった人間の恩赦」と「ルガンスク、ドネツク二州への『特別な地位』の付与」の二項目であることが指摘された。たとえウクライナが停戦しても、ロシア側の停戦違反を防ぐ保障がないと指摘された。


(2)ウクライナの長期的な安全保障の見通し:長期的に見てウクライナに安全を提供する勢力は存在せず、ロシアとの良好な関係なしに展望を持てないと指摘された。また、NATOへの加盟は不可能であり、EUへの加盟は困難であるとも指摘された。紛争状態にあるルガンスク、ドネツクの東部二州(ドンバス地域)は経済的に重みを持っており、この二州なくしては経済発展の展望が描けないとの説明があった。


141001_diplomacy_3.jpg(3)「ブダペスト覚書」の重要性:ウクライナの安全保障に関連する文書として、(ウクライナが核兵器を放棄する引き換えに米英ロシアがウクライナの安全を保障するとした)1994年の「ブダペスト合意」があるが、ロシア側がこれに一方的に違反したことの重大性が指摘された。すなわち、核兵器を放棄したのに安全の保障がなされないとなれば、今後の核開発国はもはや自国の核兵器や核開発を放棄しなくなる点が指摘された。米英はこの文書に基づきウクライナの安全を保障する責任を負っており、これは強力だが、未だ十分に活用されていない文書であるとも指摘された。


(4)プーチン大統領の狙い:今次危機におけるロシアのプーチン大統領の狙いとは、ウクライナ全体の不安定化を軍事・経済・エネルギーのあらゆる面で追及し、もってウクライナの西側への参加を阻み、ロシアの影響下に留めることであると説明された。また、ウクライナ東部からクリミア半島を経て沿ドニエストル地域に至る、陸の回廊(ランド・コリドー)を形成しようとすることであるとも指摘された。


(5)西側の対応の評価:日本を含めて西側のジャーナリストの多くが、ロシア側の捻じ曲げられた見解に強く影響されている場合が多いことが指摘された。また、米国のウクライナへの支援は評価するとしつつ、欧州のロシアに対する対応への懸念が示された。欧州はロシアとの関係について未だに従来の宥和的な思考を続けており、一体どこがレッドラインなのか分からないとの指摘も行われた。1938年のミュンヘン宥和との類推も語られた。

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