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2019/11/08
「AI・デジタル・5G時代の "経済安全保障"と"情報通信技術安全保障" ~日本が諸外国に向けて取るべきスタンス・貢献~」(村山裕三・同志社大学ビジネススクール教授、川崎達男・電気通信普及財団元理事長)(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会+「米中経済問題研究会」コロキアム)

 中曽根平和研究所では標題につき、経済安全保障・技術安全保障の国内随一の専門家である村山裕三・同志社大教授、ならびに、NTTグループの国際進出を先導してきた川崎達男・電気通信普及財団元理事長との意見交換を、下記の通りにて開催しました。

 議論の概要は下記3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

1 日時:令和元年10月25日(金) 15:00-17:00

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

3 概要

(1)AI・デジタル・5G時代の経済安全保障と米中技術覇権競争 (村山教授)

■安全保障と技術 ~民生技術主導へのシフト~

 米国の安全保障上の生産・技術基盤は、層別の見取り図が作られており、最上位層が軍事用途に特化した技術であっても、その部品や要素技術レベルにまで下っていくと、民生技術への依存度が高まるという構造になっている。「人、物、カネ」の動きのグローバル化の進展により、軍事技術開発についても、民生技術への依存が進行してきており、5G(携帯第五世代)やAI(人工知能)などの新技術登場により、この依存度合いが更に高まってきている。

 そうしたなか、米国にとっては、中国の国家戦略としての「軍民融合政策」は非常に懸念される動きであり、これは民生技術の競争で負けることは軍事技術競争での敗北につながることを意味するため、米中の技術競争は、両国間の覇権競争の様相を呈してきている。

 1980年代の日米技術摩擦と、現在の米中技術摩擦とを比較すると、摩擦のメカニズムは共通しているが、相違点は数多い。特に、経済と安全保障を隔てる壁の低まり、そして米中が非同盟国であることにより、より大きな技術摩擦へと発展する可能性はあるし、また米国による「輸出管理ツール」を使ったサプライチェーンの分断戦術が、技術摩擦をより深刻化させることも考えられる。

■米中の「国家理念ギャップ」と「技術開発・活用ギャップ」

 技術開発の国による方法の違いを掘り下げて考えると、憲法や国の理念の違いにまで行き着く。米国憲法は個人の自由を尊重する一方で、中国憲法は中国共産党のリーダーシップを尊重する。この差異が、技術開発の方向性や個人データの扱いに関する違いにつながっている。

 中国型の情報通信技術の発展は、経済的効率と国家管理強化とを、同時に実現させている。こうした「デジタル権威主義」は、新興国にも拡大しやすい魅力をもっている。

■米国の切り札「輸出管理懸念リスト」と、米中の間を生きる日本の針路?

米国の「国防授権法2019」には、中国企業の排除をめざす法令が盛り込まれた。また、Huawei社が、米国輸出管理のエンティティ・リストに掲載されたが、これは極めて大きな影響を与えうる手法である。

 これら「輸出管理ツール」が広く使われると、米中間でサプライチェーンの分断が起きうる。しかもそれが軍事分野にとどまらず、民生分野にも広く及ぶ可能性があることが、日本企業・経済にとっての今後の大きなリスクとなる。これをより大きな視点で見ると、米中技術覇権競争において、どのようにすれば、日本が米中に存在感を示しつつ、経済と安全保障の両面からこの中を生き抜けるのか、が問いかけられているといえる。

(2)"情報通信技術"をめぐる"安全保障"~事業経験を通じた見方~ (川崎元理事長)

■情報通信における米国の安全保障の動きは今に始まったことではない

 米国の情報通信分野における安全保障の伏線は、1984年のAT&T分割後から既に現れていた。NTTが国際進出を認められた直後の1996年、現地法人であるNTTアメリカ社が米国にて通信免許を申請した時、米国政府の公聴会にて議論が戦わされ、米日の通信市場の開放度合い・公正取引度合いが比較された挙句、免許付与時期が通常より1年遅れたといったことがあった。

 さらに、2000年に、米国に於けるISP(インターネットサービスプロバイダ)の大手5社に数えられるVerio社をNTTグループが買収する際には、日本のサービス企業として初めて、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による国家安全保障上の調査を受けることとなり、株式買付が完了したのちも、大統領許可が出るまで買収がストップした。これまで製造業では、1988年に富士通が米国の半導体大手フェアチャイルド社を買収する際に、類似の調査を受けたことがあったが、このVerio買収では、データの管理を米国内で、登録された米国人の手により行う、ということが条件となった。

■技術変化に着目 ~産業競争力と安全保障を維持するために~

 情報通信においては、この四半世紀で、技術の変化が著しい。交換機を使った回線交換からデータパケットをルーティングさせるインターネットへ。固定通信からモバイル通信主流へ。そして世界中のデータセンタをつないだクラウドコンピューティングによるXaaS(あらゆるもののサービス化)へ。これらの動きに応じてソフトウェア・アプリケーションの占める比重も大きくなった。そして米国の情報通信産業競争力の面では、滅びゆく企業も多数あった一方、インターネット通信設備ではCisco、モバイル端末ではApple、ソフトウェア・アプリケーション・プラットフォームではGoogle/Apple/Facebook/Amazonそれに Microsoftが、世界で隆盛を続け、ハード製造業からソフトウェアドリブンなサービス業へとシフトしてきた。

 そうした変化に対応して、米国の安全保障はその視点を着実に変えてきた。ただしモバイル通信設備については生き残った企業がなく、ここを中国Huaweiが席巻しつつあるのが実情であり、これが米国が安全保障の観点からも危惧を持つに至ったゆえんと感じる。

 一方で、日本の情報通信製造業は、世界の第一線からほぼ退場した。日本の安全保障も情報通信技術の変化に応じて視点を十分には変えてきていない。

 情報通信の分野の産業競争力は、安全保障と密接な関係があると感じる。第四次産業革命そしてAI・5G+IoT (Internet of Things)で、あらゆるものがネットワークにつながっていく中、こうした動きは、情報通信産業を超えて、あらゆる産業に波及していく可能性がある。

 日本は今こそ「各産業における情報通信の利用技術(ハード+ソフト)を活かしたデジタルトランスフォーメーション」を強みとし、米中に存在感を示しつつ、生き抜いていくべきである。

以上

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