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2022/10/20
9月29日に、米中関係研究会はウェビナー「中ロ関係をどう見るか。中ロ一体論と離間論」を開催しました。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦闘の長期化に伴い、世界秩序の不透明感は益々高まっています。中国は、一貫してロシアを最重要のパートナーとしていますが、一定の距離を保ってきました。先月15日、中国とロシアが主導する多国間協力組織である上海協力機構(SCO)の首脳会議が行われ、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が対面で会談し、西側諸国のそれとは異なる、より「合理的で公平な」国際関係を目標としていくとしています。今後、両国の関係はより緊密になるのか、世界情勢を睨みながら互恵的関係を模索するのか。米中関係研究会は、今後の中ロ関係について、1)中国とロシアの観点、2)米国、欧州諸国、インドの認識について、各地域の政治・外交に詳しい第一線の研究者を招いて議論しました。

 

 日時:2022929日 14:3016:00

 テーマ:「中ロ関係をどう見るか。中ロ一体論と離間論」

 モデレータ:川島 真(当研究所研究本部長/東京大学大学院教授)

 パネリスト:山口信治(防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室)中国の視点から

       廣瀬陽子(当研究所客員研究員/慶應義塾大学教授)ロシアの視点から

       溜 和敏(中京大学総合政策学部准教授)インドの視点から

       細谷雄一(当研究所上席研究員/慶應義塾大学教授)欧州の視点から

       森 聡 (当研究所上席研究員/慶應義塾大学教授)米国の視点から

 

■ディスカッションの概要は、以下の通りです。

 

 中ロ印の関係は、これからの東アジア、ユーラシアあるいは世界を見る上でとても重要な問題であり、お互いの関係がどうなっているか、それが西側諸国からどう見えているかを議論したい。

 

(ロシアの視点)

・これまで中国とロシアの関係は一言で言えば非常に仲が良く、決して離れることはないが、軍事同盟というまで腹を割った関係ではないと言える。対米関係では利害が一致するものの、個別の外交問題に関しては利害関係の相違が出てくるという関係であった。しかしながら、足下のロシアが国際的に孤立している中では、ロシアにとって中国はなくてはないらない存在となったと言えよう。

・今年に入りウクライナ戦争が勃発してからは、両国の関係は変わってきた。中国はウクライナとの深い関係もあるため、付かず離れずの関係を続けてきたが、足下では米国、NATOへの対抗からロシアとの関係が深まったように見える。

・両国の関係には上下関係が生まれつつあり、中国にとってロシアがジュニア・パートナー化しつつある。今後さらに、中国がロシアのエネルギー資源を購入し、多くの資材を売っていくことが予想されるため、経済力を含めた中国の優位性はより高まる可能性が高い。

・ロシアにとって、インドがQUADに加盟したことは懸念すべきことであり、インドの取り込みに注力している。

 

(中国の視点)

・中国とロシアは、決して一枚岩ではないが、中国にとってロシアが最高位のパートナーシップ国となっている。しかし、それでも幾つかの問題では距離感が大きいという難しい関係にある。対米戦略、ある種の価値観では一致することが多いが、ウクライナ戦争に関しては中ロの関係は完全には一致していないし、軍事同盟に発展するということもない。中国はあくまでもロシア寄りの中立という立場を見せている。

・かつての中ソ同盟は冷戦期においても対米戦略が一致していたが、個別の問題(台湾問題、中印紛争)での齟齬が積み重なっていったという経緯もある。中長期的に言えば、中ロの蜜月というのは上手くいかないだろう。

・中ロの関係は、離間するかと言われればそうではない、逆に一体化するかと言われればそうでもないという関係にあると言えよう。

・中央アジア、中東では、ロシアの力が弱まってくるにつれて、相対的に中国の力が増し、パワーバランスが変化することも予想されるものの、短期的には想定しにくい。

 

(インドの視点)

・中印関係は国境紛争など多くの問題を抱えており、インドにとって中国は脅威である。ロシアの力が低下し、中国が中央アジアなどで力を付けることは、インドにとっては心地よくない。

・インドの外交、海外戦略は、基本的には多角連携(マルチアライメント)戦略である。中国の台頭によりアジアでのバランスが崩れたところを、QUADSCOなど他の多国間連携でバランスを取ることがインドの戦略と言える。

・RIC(ロシア・インド・中国)の協力体制はあるものの、インドにとっては米国に対抗するという意味合いは薄れている。他方で、RIC3カ国のバランスを保つという観点からロシアの安定を望むところはあろう。

 

(米国の視点)

・バイデン政権は、中国とロシアが互いに協力しながら、米国主導の秩序、あるいは民主主義のルールに基づく秩序を覆そうとしているという一体論で見ている。ロシアは先鋭的な脅威、中国は長期的に対抗しなくてはいけない競争相手という位置付けであり、この両者が連携しているという認識である。

・米国内では、中国はロシアの戦争遂行への協力は西側諸国との関係を不必要に損なうリスクを懸念しており、両国間に深い戦略的な信頼というべき緊密さはないとする一方で、中ロが仲違いすると西側諸国に対して不利になるという教訓を過去の歴史から学んでいるため中ロが離間することは期待しない方がよいという見方が多い。

  • バイデン政権は、ウクライナの事態が台湾に波及することに危機感を持っており、このことに伴う米中関係の緊張は、中国とロシアの一体論を補強するという状況が生じている。

 

(欧州の視点)

・2002年イラク戦争の直前には、フランス、ドイツを中心とするEUを含めた欧州が、ロシア、中国と提携し、米国を批判していた。これに対抗し米国は、東欧諸国と提携し、フランス、ドイツを批判するという構図があった。その後、2014年のロシアによるクリミア半島併合を契機として、欧州はロシアの行動に対して大きな脅威を認識するようになると同時に、ロシアへのエネルギー依存を懸念し始めた。

・しかし、この時点で、欧州は、ロシアが脅威であるものの中国は脅威ではないとし、中国との関係を強化した。2020年以降になり人権問題を巡り英国、欧州とも中国は体制上のライバルという見方を強め、厳しい姿勢を取るようになった。

・このように、ウクライナ戦争によって欧州が中国、ロシアに対して厳しくなったのではなく、その前から構造的に中国、ロシアと対抗していくという姿勢に転じたと見ることができる。従って、欧州諸国は、個別に国益を考えるのではなく、自由民主主義陣営と権威主義体制との構造的な対立という構図を想定するようになった。

 

(ディスカッションの概要)

ウクライナ戦争を契機として、ロシア、中国、インド、米国、欧州の関係性には、経済的な結びつきを越えてある種の「陣営観」が打ち出されているというのが、先進国の見立てだろう。今後の国際主義を展望するならば、日本はこの動きに同調して世界を分断するだけでなく、経済関係が緊密な中国との対話を維持しつつ、改めてASEAN、南アジア諸国などいわゆるグローバルサウスとの関係性を意識することが重要との意見が提起された。

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