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2023/07/20
7月10日にNPIウェビナー「ウクライナ戦争の波及効果~中央アジアと中国の接近~」を開催しました。

 G7広島サミット開催直前の5月18日から2日間にわたり、中国で開催されたのが中国・中央アジア5カ国首脳会合でした。シルクロードの要衝として発展した長安(現在の西安)を題材とする式典が催され、海外メディアも見栄えのする映像を報じました。こうした演出をした中国の狙いは、国内外に中国・中央アジアサミットを印象付けることにあったと思われます。

 その一方で着目すべきは、実態として中国と中央アジア諸国の双方が何を意図して接近を図っているのか、そしてその結果として、この地域にどのような情勢変化がもたらせるかにあります。

 本ウェビナーでは、こうした中央アジア地域情勢を政治と経済の両面から具体的に検証しました。


[パネリスト]

宇山 智彦 (北海道大学 教授)

畔蒜 泰助 (笹川平和財団 主任研究員)

山口 信治 (防衛研究所 主任研究官)

[モデレーター]

川島 真 (中曽根平和研究所 研究本部長)


当日は、官庁、企業、研究者、マスメディア等の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。議論の主なポイントは以下のとおりです。


・現在、中国が中央アジアにあらゆる分野で関与する一方で投資は期待ほど伸びてはおらず、他方で中国の「軍事」面での関与は一定の制限下で増しており、軍事・政治面ではロシア、経済面では中国が、それぞれ中央アジアに影響力を持つという単純な棲み分け論は成り立たない。これはコロナ禍、ウクライナ戦争を経た一つの変化である。

・ロシア・中国の中央アジアへの関与は複合的であり、労働移民の受け入れやガスの供給などではロシアは経済面での一定の影響力を保ち、中国はタジキスタンにアフガニスタンとの国境警備・監視の支援のための基地を保有している。但し、中国がロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に代わる集団安全保障の枠組みを構築する兆候は見られない。

・中央アジアにおいて、ロシアと中国は反カラー革命や西側(特にアメリカ)の影響力抑制という点で共通の利益があり、対立・競合関係にはない。北極海を巡ってもロシアと中国は接近している面がある。

・ウクライナ戦争により西側から経済制裁を受けているロシアを中国が支えるなか、経済規模の格差からロシアの中国への依存度が高まっており、その意味ではジュニアパートナーとも言えるが、ロシアはこれを従属関係とは捉えていないという点に留意する必要がある。

・強権的なプーチンのロシアを支え、その混乱を防ぐことは、アメリカとの長期的な「競争」を視野に入れる中国にとって都合が良いとの見方もある。

・ウクライナ戦争勃発前の話ではあるが、ロシアの識者は、米中対立はロシアにとって有利ではあり、これが続く限り、ロシアは中国を支援するが、もし、アジア太平洋地域で中国が米国に勝利することになれば、ロシアは中国から距離を取ることになるだろう、と述べていた。

・冷戦期のソ連と中国との関係とは異なり、現在のロシアと中国は対米戦略で結束しているが、中長期的には指導者交代により関係が変化する可能性もある。

・一方の中央アジアは、他のグローバルサウスと同様に、大国間の争いとは距離を置いている。

・欧米とは人権問題で距離があったが、特にEUとの関係は近年改善しており、アメリカも対話・協力を再び強化している。

・地理的・文化的に近いトルコとの関係は近年強まっている。ナゴルノカラバフ紛争でアゼルバイジャンを支援して勝利に導いたことや、エルドアン大統領の積極的な独自外交も、中央アジアにおけるトルコの存在感を高める原因となっている。

・中央アジアではトルコやロシアへの親近感が基本的に強いが、ウクライナ侵略戦争によりロシアへの警戒感も強まっており、特にカザフスタンで顕著である。また、対中感情はやや悪化傾向にあり、こうした世論は各国政権への一定の圧力となっている。

・中央アジア・中国サミットの共同宣言で反カラー革命に言及があったが、これは中国側の意向を踏まえたものであり、中央アジア側に関心があるわけではない。今年3月の露中共同声明で両国共通の関心事項として反カラー革命を謳ったのとは温度差がある。

・日本は、中央アジア+日本(5+1)の枠組みを構築し、安倍首相(当時)による5か国歴訪の実績もあるが、日本企業がリスクを敬遠して対ロシアほど投資が活発ではなかった。中国企業はファーウェイやZTEなどデジタル分野での積極進出が目立つなか、日本企業は何を武器にするかを戦略として明確にすべきである。その前提となる情報・知見も不足している。

・中央アジアは首脳によるトップダウンで決まる体制であるため、日本は首脳外交を活発化すべきである。


以上

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