昨今、従来型の軍事力による戦争のみならず政治・経済・社会・文化等様々な領域で展開されるハイブリッド戦に対する関心が高まっており、特に台湾情勢が緊張を増す中、中国による台湾の強制統一のためのハイブリッド戦に対応することの重要性が増しています。
今回、オーストラリア、台湾においてハイブリッド戦の専門家として活躍されている方々に登壇いただき、ハイブリッド戦の現状を総括すると共に、中国による台湾強制統一をねらいとするハイブリッド戦対策のための多国間共同をいかに進めていくべきかについての展望を議論いたしました。
〔開幕挨拶〕
実施者:齋藤 隆(元防衛省・自衛隊統合幕僚長・退役海将)
〔基調報告〕「中国による台湾統一ハイブリッド戦」
報告者:川嶋 隆志(防衛研究所所員)
〔パネル・ディスカッション〕
モデレーター:松村 五郎(元陸上自衛隊東北方面総監・退役陸将)
ディスカッサント:
フィトリアニ(Dr. Fitriani)(オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)上席研究員)
游 知澔(Mr. Chihhao Yu)(台湾情報環境研究センター(IORG)共同ディレクター)
川嶋 隆志(防衛研究所所員)
約100名の視聴者に参加いただき、登壇者及び視聴者からの質問を基に、以下の点を中心として、活発な議論が交わされました。
1. 特に2024年の台湾総統選前後から、中国によるハイブリッド戦の頻度は増加しつつあり、その手段も多様化しつつある。軍事力を用いて台湾周辺で演習をくりかえすとともに、情報操作、サイバー攻撃などを実施している。
2. 中国によるハイブリッド戦の対象は、台湾のみならずそのパートナー国である日本、米国、豪州、EU等を含み、これらの国と台湾との関係を切り離そうとするもの。
3. ハイブリッド戦は気づいたときには既に始まっている性質のものが多く、専門家を含めた情報収集、さらにそれらを集約する枠組みが必要。これらは一国のみでは困難であり、また各国政府だけでできる性質のものでもない。アジア地域におけるハイブリッド戦対策センターのようなものの設立が必要。
4. 収集したハイブリッド戦事例のデータベースから読み取れる最近の傾向として、サイバー攻撃、偽情報拡散が増加しつつある。さらに、それらを行うために生成AIが活用されていることも最近の傾向であり、生成AIを利用したハイブリッド戦への対策が今後の重要な課題となる。
5. 台湾の二党対立状態を利用して怒りや恐怖といった人間の持つ強い感情を増幅させることを企図した情報操作が既に行われている。台湾政府や公的機関に対する怒りを煽る、中国が戦争を仕掛けてくるといった恐怖を煽る情報戦が実施されている。
6. 地理的に離れたオーストラリアにおいても中国によるハイブリッド戦が実施されており、中国語を含むマイノリティ言語のローカルメディアによるナラティブ拡散といった手法がみられる。特に大きな国内政治イベントがある時期に活発に実施される。
7. 新聞、テレビ等の既存メディア、ネット情報やSNS等からなる情報エコシステムのコーディネートが必要。中国やロシアといったアクターは広大な情報空間上で政府等への信頼を棄損し社会を分断させようとする情報戦を実施。これに対抗し民主主義を守るために政府、地方自治体、メディア、ITプラットフォーム、シンクタンク等が協力してファクトチェックし正しい情報を発信するための仕組みが必要。