2026/02/25
2月6日にNPI公開(対面)シンポジウム「2026年の世界 −座標軸・羅針盤・海図なき時代の国際政治の行方−」を開催しました。
2月6日、中曽根平和研究所はNPI公開(対面)シンポジウム「2026年の世界 −座標軸・羅針盤・海図なき時代の国際政治の行方−」を国際文化会館 岩崎小彌太記念ホールで開催しました。
【司会】
川島 真 中曽根平和研究所研究本部長(東京大学大学院教授)
【パネリスト】
細谷雄一 中曽根平和研究所上席研究員(慶應義塾大学教授)
森 聡 中曽根平和研究所上席研究員(慶應義塾大学教授)
西野純也 中曽根平和研究所上席研究員(慶應義塾大学教授)
廣瀬陽子 中曽根平和研究所上席研究員(慶應義塾大学教授)
【概要】
冒頭、司会から、中曽根平和研究所では東アジア国際問題の内在的考察と題した研究を外務省の補助金を得てこの三年間行ってきましたが、国際情勢は大きな変動期、様々なプレーヤーが入り乱れる多元方程式を解かなければならない複雑な状況の中で、本日の議論を通じて国際情勢を見る補助線が引ければよいと考えており、それぞれのパネリストに専門領域からの見方を説明していただきたい、との発言がありました。
これを受け、登壇者から概要以下の発言がありました。
(米国)
- インフレ、エプスタイン・ファイル、移民関税局の取り締まりへの反発などでトランプ政権の支持率の低下に歯止めがかからない中で、トランプ大統領の対外行動が劇的なものになるのではないかと予想する向きがある。
- 欧州は対米不信を高めて対中姿勢を軟化させる可能性があり、アメリカはトランプ大統領訪中時に大型商談を追求し、G2的な雰囲気が醸し出される可能性があるほか、ロシア・ウクライナ戦争が長期化すればロシアの対中依存が進行する。欧州、米国、ロシアから接近されるこのような状況は中国をして、日比台に対する圧力を高める誘因とならないか。また、米国防戦略では台湾に言及はないが、「第一列島線に防衛ラインを張った。政権やアメリカの専門家は台湾防衛は米国の国益に直結していると考えているが、トランプ大統領は経済関係を重視している状況。
(多国間外交)
- 高坂正堯京都大学教授はかつて、その著書『国際秩序』のなかで、国際政治を、力、利益、価値という三つの体系から説明した。ダボス会議の演説が大変話題になったカーニー首相は、価値の体系を崩す形で、利益の体系を基に行動し中国に接近しているが、力の体系という面では米中関係の戦略的バランス、米国の拡大抑止に頼っているところ、三つの体系とも損なうことなく総合的に外交政策を展開できているのか。ベネズエラの事案で日本は、アメリカを明示的に批判することは回避しつつも、多国間主義を堅持しているが、この方が賢明ではないか。
- 法の支配に基づく国際秩序が動揺し根本から壊れ、ジャングルの掟の世界に変わりつつある。この中で生き残るには、力にのみ頼れないミドルパワー同士の連携が必要。
(ロシア)
- 「力による現状変更」がロシアに特異の現象でなくなっている状況はロシアには都合の良い状況。ウクライナ戦争は未だ本格的な和平交渉の前段階にあり、ロシアは時間稼ぎをしている。終わり方が問題で、戦争の再発を抑止できる和平を達成できるかが課題。
- また、ロシアはハイブリッド戦を使って欧州などで影響を及ぼし、民主主義の棄損、ウクライナ支援疲れを引き起こそうとしており、手段もエスカレートしている。
- 衰退する大国であるロシアにとり望ましいのは多極的な世界。対中接近はそれには望ましいが、中国だけにスポットライトが浴びるのは好ましくないと考えている。
(韓国・北朝鮮)
- 李在明大統領の実用外交の基調は続いていく。カーニー演説に対する関心は日本ほど高くない。
- 米韓関係は、関税・投資に関する交渉は妥結。原潜獲得、原子力協定の改定、戦時作戦統制権返還など同盟の「現代化」で韓国側は利益を追求していく。
- 奈良での日韓首脳会談の大成功で韓国内での高市総理への評価はとても高くなっている。今後の課題は両国民が実感できる成果を上げていくことで、韓国側としては経済産業分野での協力、経済安全保障で日本と是非協力したいと考えている。
- 中国との関係も実用外交。李政権は進歩政権だが、韓国内で反中感情も高く、朴槿恵大統領や文在寅大統領のように中国に接近することは難しいだろう。
- 北朝鮮はまもなく第9回党大会が開催されるが、内政・外交でどのような方針を打ち出すか要注目。金正恩総書記は、党大会に向けてこれまでの5年間の成果をアピールしている。
- ベネズエラの事案を見て、金総書記は、結局中露は最終的に頼りにならず、戦略的自立性を高めるという方針が正しかったと考えているだろう。ドンロー主義で米国が北朝鮮への関心を低下させているのはむしろ望ましく、核・ミサイル能力の増強を続けるだろう。
(中国)
- 中国としては世界の多極化が望ましいと考えてはいるが、一方で習近平主席は、「2049年までに世界の諸民族の真ん中に立つ」ということを言っている。
- 2035年がその中間点にあり、4期を務めて2032年まではやるということであろう。そろそろ後継者候補達が姿を見せてくることが必要であり、2027年の党大会に向け、それをめぐって内政面でざわついている状態。
- 高坂正堯の言う、力、利益、価値の体系という意味では、中国が価値を押し出していくのは今は無理で、利益をもたらす存在としてアピールしそれを力につなげていこうとしている。アメリカとの比較で世界から信頼感を得ようとしている。
- 世界各国を中国に経済的に依存させていくことを目指している。科学技術を重視し、人口減でも経済成長を続ける台湾の経済をモデルとしているとも考えられる。
- 対外関係の基本は対米関係。ロシアはアメリカに挑戦する中で最も頼りになるパートナー。
- 台湾がベネズエラよりも防空能力高く、アメリカが中国より軍事的に強い現在、中国はアメリカと同じことを台湾にはできない。習近平主席が、台湾の人々が、中国による「強制的」統一に関心がなく、実際に成果はないと見切ったならば、次にどのような策を取るか。その前の変化をどう読み取るかという段階。2027年危機という説があるが、これは党大会のある敏感な年。
- 航空母艦を第一列島線と第二列島線の間で常時活動。自衛隊機へのレーダー照射も沖縄と台湾の東側で発生している。
続いて、経済安保について以下の議論がありました。
- 同盟国が連合して中国に臨むべきだが、対中輸出規制についての米国の姿勢がふらふらしており、これでは同盟国に協調を働きかけても有効ではない。
- AIは、ドレドノート艦、核兵器の登場に次ぐ、三度目の大きな軍事技術上の革新である。
- 韓国は大統領府にAI担当の秘書官を設置し、国際競争の中を強く生き残ろうとしている。日本とは重要鉱物、エネルギーの共同調達、産業技術での協力を求めている。また、CPTPPに正式申請してきたとき日本はどう対応できるかだろうか。
- ロシアに関しては、ドローンなどの現代戦に関する軍事技術についてはウクライナが先行。ドローン技術もイランから譲り受けた。若者が大量に国外に流出しており、経済成長率も落ち込み展望が描けない中、対ロ制裁解除が得られないのであればますます対中依存が深まる。
さらにインド太平洋情勢についても以下の議論がありました。
- ドンロー主義の下でも、アメリカにおいて、インド太平洋の繁栄はアメリカとつながっているとの認識はあり、米国が一国主義の例外として関わり続けることが予想される。
- 中国が核戦力も含め軍事力を増強する中、米国の抑止が破れた時の大統領の判断は難しい。
- 韓国は朝鮮半島の安全保障に役割を果たす意思は強く、台湾問題へのかかわりには消極的。コルビー米国防省次官は、中国との力の均衡のために同盟国はさらに貢献すべしという論だが、韓国はその役割を朝鮮半島で果たす模範的な同盟国という認識である。
- 欧州と日本の安全保障は繋がっている。特にサイバー防衛については、地理的な区分は意味がない。日英伊による次世代戦闘機共同開発も進んでいる。
- ロシアにとっては、中国との連携は緊密化しており、また北朝鮮との関係が大きく進展。北朝鮮は、ドローン戦を含む現代戦の実戦経験等を得ている。孤立していないというイメージを造ろうとして、BRICSや上海協力機構などの枠組みの拡大・強化、東南アジアを含むグローバルサウス諸国との軍事協力の拡大、原発外交を実施している。
その後会場から質問があり、応答を兼ねたまとめとして登壇者から以下の発言がありました。
- 三年間の研究期間の間に国際情勢は大きく変容している。「ジャングルの掟」のよう国際情勢は多元方程式で、解もケースバイケースであるので、色々な国との関係が重要。
- 日本にとっては、日米同盟を維持しながら、ミドルパワー同士での連携を進め、そしてそれぞれの分野で・領域で国際的な連携を構築していく必要があるという難しい状況。
- ドンロー主義の下でも、アメリカにおいて、インド太平洋の繁栄はアメリカとつながっているとの認識はあり、米国が一国主義の例外として関わり続けることが予想されるが、そのためには、日台比の各々がどれだけ米国にとって魅力的で死活的な利益かを提示できるかが重要。
- ミドルパワー同士の連携が必要。CPTPPは日本の価値が出ており、イニシアティブをとることが重要。また、日EUのEPAはトランプ政権無しに実現しなかった。日韓連携も進めるチャンスである。
- 日韓同盟は現実的ではないが、韓国との安全保障の制度化は目指していくべき。RAA や装備品移転協定は難しいにせよ、今の良好な関係が続けばACSAまではできるかもしれない。
- 韓国がCPTPP加盟申請したら、早期加盟に日本が率先して動くべき。
- 価値外交が重要で、日本の価値外交への信頼感を崩すべきではない。欧州各国ではウクライナ支援疲れが選挙の争点になっているが、日本では争点になっておらず、支援が安定して継続されているということが、日本が信頼できる国だというメルクマールになっている。
- 日本はハイブリッド戦への対抗力弱いので、欧州の経験に学びつつ、対抗力を高めるべき。
- 中国が自国中心のナラティブをどんどん発信している。これについては、カウンターナラティブを日本も発信していくべき。「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違いは説明しないとわからないところ、中国の主張は途上国に浸透しつつある。
- 台湾をめぐる抑止が破れた場合の米国の対応は、大統領がその時に下す判断に懸かっているが、それがどのようなものになるかは分からず、不安がないとはいえない。拒否的防衛は、負けない戦略であると同時に、勝てない戦略でもあるので、紛争が長期化する可能性がある。長期化するリスクのある紛争に介入するかどうかは、いかなる政治指導者にとっても難しい判断となる。
- 米国が拡大核抑止に基づいた戦略をとっているうちは、核使用権限を米国が独占する方針をとるので、同盟国の独自核武装を容認するとは思えない。同盟国が完全に米国の防衛ラインの外に押し出されることになれば、そうした方針が変わるのかもしれないが、同盟国が難題に直面することに変わりはない。

