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外交・安全保障

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2019/07/12
海洋安全保障の現場から~海上自衛隊インド太平洋方面派遣訓練乗艦レポート~(大澤主任研究員)

4か国共同訓練参加艦艇 フランス海軍ホームページより転載

シンガポール停泊中の「いずも」と記念撮影をする中国海軍将兵 筆者撮影

4か国共同訓練「むらさめ」と「ウィリアムP.ローレンス」 筆者撮影

フランスの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」 筆者撮影

「いずも」に参集した各国海軍のヘリ 筆者撮影

海洋安全保障の現場から

~海上自衛隊インド太平洋方面派遣訓練乗艦レポート~

主任研究員 大澤 淳


 2019年5月15日、海上自衛隊インド太平洋方面派遣訓練の視察・取材のため、シンガポールのチャンギ軍港に停泊中の海上自衛隊の護衛艦「いずも」(艦長 本山勝善一等海佐)に乗艦した。5月26日のマレーシアのクラン港入港までの12日間、海上自衛隊のご厚意により「いずも」に乗艦し、インド太平洋方面派遣訓練を間近に見る機会をいただいた。

 事実上の空母化で注目を集めている「いずも」は、昨年の大綱・中期防でSTOVL機搭載に向けた改修が決められており、我が国が今後導入するSTOVL機を搭載することが予定されている。「いずも」は排水量19950t、全長248mで、大きさは戦時中の日本海軍の空母「飛龍」とほぼ同じ大きさである。全通型の飛行甲板を備え、同時に複数の搭載ヘリコプターの離発着が可能となっている。乗員は約470名であるが、艦内には約970名を収容するスペースがあり、乗員以外の同乗者を約500名乗せることが可能である。

 「いずも」が派遣されているこの海域では、南シナ海で中国が九段線内の領海権を主張し、サンゴ礁を埋め立て軍事基地の建設を進めている。またインド洋では、中国海軍の水上艦艇・潜水艦が進出し、沿岸国での海軍基地の整備を企図するなど、我が国の中東からのエネルギーのシーレーンが通るこの海域は、中国の軍事プレゼンスの伸長が著しい場所でもある。

 今回の派遣訓練で「いずも」は、第1護衛隊群(群司令 江川宏海将補)の旗艦として、僚艦「むらさめ」とともに4月30日に横須賀を出港し、また6月5日に「あけぼの」を追加して、7月10日までの約2ヶ月半、南シナ海、インド洋に派遣されていた。訓練期間中、南シナ海で日米印比の共同訓練を行い、インド洋で日仏豪米の共同訓練を実施した他、インドとの共同訓練やASEAN域内諸国の海軍との二国間の親善訓練も実施され、米空母「ロナルド・レーガン」との訓練も南シナ海で行われた。海上自衛隊艦艇のインド太平洋方面の長期にわたる航行は、2017年に開始され、今年で3年目となる。中国の力の伸張が著しいこの海域において、日本の海上自衛隊がプレゼンスを示し、米国のみならず域内諸国との共同訓練等を通じて、この海域の安定に貢献することは、「自由で開かれたインド太平洋」構想を具体的に実践する政策手段として、非常に重要になってきている。

IMDEX(国際装備品展覧会)アジアでソフトなプレゼンスを発揮

 「いずも」が入港中のチャンギ海軍基地では、国際防衛装備品展覧会(IMDEX)アジア2019が開かれており、これに合わせて各国海軍艦艇の公開が行われた。基地の埠頭には、米海軍のミサイル駆逐艦「ウィリアム P. ローレンス」と中国海軍のジャンカイ級フリゲート艦「湘漂」が並んで停泊しており、海上自衛隊の「むらさめ」の後ろに、韓国海軍の駆逐艦「チェ・ヨン」、そのほかにオーストラリア海軍の揚陸艦「キャンベラ」、ミャンマー海軍の最新鋭フリゲート2隻、インド海軍補給艦「シャクティ」などが並び、満艦飾といわれる旗で飾られた各国海軍の軍艦が停泊。その各国海軍の艦船の中でも、「いずも」は僚艦「むらさめ」とともに日本のプレゼンスを示す存在で、埠頭から見上げるとひときわ大きく、存在感がある。

 5月15日は艦船の一般公開デーに当たり、夜は各艦で艦上レセプションが行われた。「いずも」では、江川海将補とシンガポールの山崎大使共催のレセプションが催された。各国の船の中でも、自衛隊のレセプションは大人気で、ホスト国シンガポール海軍の将兵だけでなく、米国、オーストラリア、ミャンマー、中国海軍の将兵もこぞって来艦していた。日本らしい数々の料理が、きめ細やかな盛り付け(白砂の上に刺身の舟盛りを置くなど)で供され、我が国のソフトパワーを目の当たりにするシーンであった。中でも、来艦者のお目当ては、「いずも」の乗員がハッピ姿で焼く焼き鳥で、長い行列ができていた。レセプション後半は、和服に着替えた乗員による居合の披露、三線、阿波踊りなど来客者を楽しませる演し物が目白押しであった。レセプション会場では、この海域で鋭く対立している中国海軍の将兵と米国・自衛隊の将兵が歓談する姿も見られ、こうした海軍種同士の交流が別の意味で地域の緊張緩和に役立つ側面も垣間見られた。

 これらのレセプション行事を支えているのは、給養員(調理員)を含む第4分隊(経理補給)の隊員で、のちにインタビューで聞いたところでは、総出で徹夜で用意し、あまりの盛況ぶりに料理がなくなりそうになると、工夫して追加調理をして出したということであった。日本のソフトパワーの発揮も、縁の下の力持ちであるこれらの隊員に支えられている。

艦はマラッカ海峡を北上

 5月16日、もやいを解き、艦長の「出港ヨーイ」とともに出港ラッパがなり、出港となる。「いずも」は船体が大きいため、出港時はタグボート3隻で転回させるものの、沖からの向かい風でなかなか離岸にも時間がかかる。出港時の艦橋の緊張は大変なもの。出港に要した時間約30分。チャンギ軍港を出港し、マラッカ海峡を訓練海域まで一路北上する。ここから仏豪米海軍と合流するまで約3日の航海。艦は24時間航行しているので、乗員も3交代制である。若い隊員にインタビューしたところでは、非番の時間もソナーなど扱う機器の勉強をしているという。狭い艦内では気分転換も必要で、訓練の合間を見て艦上体育が解禁になり、夕方大勢の隊員がそれぞれのペースで一周約500mの飛行甲板を走る。ちなみに、長い航海では曜日の感覚がなくなる。そのため原則金曜日は「カレーの日」である。乗員の中には、出港してから家に帰るまでの日にちを、「あと○週」ではなく、「あと○カレー」とカレーの数で数えている。

 5月17日、日没とともに洋上慰霊祭を実施。日本海軍最後の海戦であるペナン島沖海戦で沈んだ重巡「羽黒」、商船隊で散華した御霊を慰霊。艦を回頭して、格納庫エレベーターが西日の正面に向くようにして式典を実施。江川群司令が追悼文を読み上げ、続いて供物、儀仗隊による弔銃発射、「うみゆかば」とともに黙祷を捧げる。インド洋に沈む夕日とともに、先人が命を犠牲にして築いた今日の平和を噛みしめる瞬間である。

インド洋でフランスの原子力空母に合流、日仏豪米4か国共同訓練

 5月18日、艦橋に上がると、中国漁船が左舷を通っていた。インド洋のこの海域まで中国漁船が来ていることに驚く。

 同日午後、「PHOTEX」と称される写真撮影に同行するため、「いずも」搭載のSH-60Kに搭乗。SH-60Kは、主として「対潜水艦戦」を目的として、アメリカのシーホークをベースに日本独自に改良した哨戒ヘリコプターである。PHOTEXでは、同行のメディアやプロのカメラマンが上空から「いずも」の撮影に当たる。写真や映像の構図のイメージをヘリのパイロットに打ち合わせで伝え、ベストショットを狙う。我々が専門誌で目にする護衛艦の躍動的な写真は、プロのこだわりの仕事である。1枚の写真は文章よりもモノを言う。効果的な映像・写真によるメディアからの発信は、インド洋における日本のプレゼンスを発信する上で、欠かせない要素である。

 5月19日、ようやくフランス海軍の原子力空母シャルル・ド・ゴール(CDG)と会合した。水平線上にポツンと黒い影が見える。双眼鏡で覗くと、確かに空母の形。日仏豪米共同訓練(ラ・ペルーズ)が始まる。5月22日まで行われた4か国共同訓練には、日本から護衛艦「いずも」、「むらさめ」、フランスから原子力空母「シャルル・ド・ゴール」、ミサイル駆逐艦「フォルバン」、フリゲート艦 「プロヴァンス」、「ラトゥーシュ・トレヴィル」、補給艦「マルヌ」、オーストラリアからフリゲート艦「ツゥーウムバ」と潜水艦「コリンズ」、アメリカからミサイル駆逐艦「ウィリアムP.ローレンス」の10隻が参加した。

 日仏豪米の4か国がインド洋で共同訓練を行うのは初めてで、スマトラ島西方の海空域で実戦さながらの対潜水艦戦訓練、航空機の発着訓練、艦隊行動訓練等が行われた。今回の4日間にわたる共同訓練は、インド洋への進出を強める中国に対して、各国海軍の関係強化を通じて、「航行の自由」「法の支配」などの国際法の基本原則を断固として守る強い意志を示すものであり、「自由で開かれたインド太平洋」構想を具現化する共同訓練である。訓練中の5月20日には、「いずも」がホスト艦となり、各国艦艇から指揮官がヘリコプターで「いずも」に移乗し、各国指揮官昼食会が行われた。「すし、てんぷら、さしみ」をつまみながら談笑する各国海軍指揮官の姿は、「自由で開かれたインド太平洋」を象徴するシーンでもあった。

 訓練の最終日の5月22日、フランス海軍のご厚意で、日本側メディアチームとともにフランスの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」の取材を行うことが許された。艦載機ラファールの発着艦を間近に見学。カタパルトで発艦する戦闘機は圧巻であったが、発着艦作業・航空機の移動作業の手際の良さとスピードには目を見張るものがあった。さすが、アフガニスタンでの対テロ戦争や過激派組織ISILの掃討作戦などの数々の実戦を経験しているフランス海軍だけのことはある。また、フランス海軍では士官から現場の兵員まで、女性が男性と一緒に働いている姿に驚かされた。女性の広報士官が日本側の見学をアテンドしてくれたが、質問したところ乗員の16%が女性とのこと。

 「シャルル・ド・ゴール」の士官食堂で昼食をごちそうになる。メニューは、手長エビのムニエル、チキンカレー、デザートとお約束のフランスパンにコーヒー。2000名の乗組員がいる「シャルル・ド・ゴール」では、フランスパン職人もいて、1日3000本のフランスパンを焼いているとの由。フランス海軍では、長期航海の士気を維持するためにも、食事は重要な時間と考え、仕事以外の話を仲間としながら食事をするのが普通。昼と夜はそれぞれ1時間かけて食事を楽しむとのこと。また、6か月にも及ぶ長期航海では、乗組員の士気を考え、インターネットへのアクセスも許されているほか、Barでのアルコールも2杯まで飲むことができる。今後、日本の海上自衛隊も長期の訓練航海が増加することを考えれば、士気を維持するために、フランス海軍から学ぶことが多いのではないかと感じた。

 4日間昼夜なく続いた4か国共同訓練も終わりを迎え、艦隊が別れる「フェア・ウェル・セレモニー」では、「いずも」と「むらさめ」が「シャルル・ド・ゴール」と反航しながらすれ違い、乗員が整列して艦の舷側に並ぶ「登舷礼」を実施。「むらさめ」の艦橋には、フランス国旗を振って別れを惜しむ姿も見られた。

長期派遣訓練の課題と水陸両用戦力としての「いずも」のプレゼンスの可能性

 フランス海軍で見られたように、水上艦艇の長期派遣に伴う課題として、ワーク・ライフ・バランスと乗員の士気の維持があげられる。フランス海軍は毎年6か月の遠洋航海を行っているが、アメリカ海軍でも空母打撃群は同様期間の遠洋航海を実施している。今回の海自の派遣訓練は約2か月半であるが、今後ペルシャ湾やインド洋での緊張が高まった際には、より長期の派遣が行われることもありうる。少子高齢化で、隊員募集がタイトになる中では、乗員確保のために、今の若者の嗜好に合った環境の整備は不可欠である。特にインターネットへのアクセスなどの通信環境の整備は避けて通れない。たしかに、位置情報の秘匿などの問題はあるものの、GPS機能を停止させた形でスマホやタブレットの利用を行えばある程度は問題を解決できる。フランス海軍のように、平時においては乗員のインターネットへのアクセスを認めることが、士気の維持のためにも必要であろう。

 今回「いずも」は大型艦であるため、居住空間に余裕があり、水回りと居住区の動線も近くに置かれるなど、生活環境は昔の護衛艦に比べると段違いに良くなっている。また、造水能力も高いため、洗濯機や乾燥機の利用、風呂の利用も比較的自由に行える。「いずも」の乗組員の約10%は女性自衛官であるが、居住空間には女性区画が設けられ、女性の乗組員も過ごしやすいように工夫されている。今回女性自衛官の方にお話を聞く機会があったが、仕事は男性に負けないという自負を持ち、誇りをもって仕事をされていた。女性が職場に入ることで、職場の雰囲気が柔らかくなるとの意見もあり、今後長期の洋上勤務でも女性自衛官が活躍する余地がさらにあるように思われた。

 また、乗員以外の同乗者を約500名乗せることが可能である「いずも」は、日本初の海兵隊ともいえる水陸機動団を乗せれば、将来的にアメリカ海軍の揚陸艦のような運用も可能である。将来的にSTOVL機を運用することになれば、米国のワスプ級揚陸艦と同様の能力を持つことになる。中国が南シナ海の軍事化やインド洋への進出を図る中では、「自由で開かれたインド太平洋」における「航行の自由」を断固として守る強い意志を示すためにも、そのような水陸両用能力を持った艦艇のプレゼンスを示すことが、より重要性を持ってきている。

 今年のインド太平洋方面派遣訓練では、水陸機動団から約30名が研修目的で「いずも」に乗艦していた。水陸機動団は、島嶼部の防衛を念頭に、本格的な水陸両用作戦能力を保有する部隊として2018年に新編された。今回の訓練は、船の運航に関わる業務の研修が主な目的で、武器は携行していないものの、洋上では練度維持のために、小部隊が敵に遭遇した際にとる行動の訓練など、模擬小銃(ラバー製)を用いた様々な訓練が格納庫で行われていた。海自と陸自が協同して長期の洋上派遣訓練を行っている姿は、統合運用の観点からもメッセージとしてもう少し押し出してもよいのではないかと思われた。

 今回、インド太平洋方面派遣訓練で「いずも」に乗艦した後、5月31日から6月2日にシンガポールで開催されたIISS主催のシャングリラダイアローグに参加したが、欧米の国防当局者は、国際会議での高官の発言と有機的に連動させて自国のプレゼンスのメッセージを発信していた。例えば、米国のシャナハン国防長官代行は基調演説の中で、「国際協調の格好の実例が、フランスの空母シャルル・ド・ゴール、日本の「いずも」「むらさめ」、豪州の「コリンズ」「ツゥーウムバ」とともにインド洋で先月実施した「ラ・ペルーズ」演習であった」と述べている。米国は1隻しか艦船を派遣していないが、国際場裡では効果的にメッセージ発信を行ったように見受けられた。

 また、フランスのパルリ国防大臣(女性)は、スカーフを巻いて颯爽と登場し、セッション演説の冒頭で「私は一人で来たわけではない。今年、私はフル編成の空母機動部隊を連れてきた。空母、駆逐艦、補給艦、20機のラファエル戦闘機。(中略)フランスの空母シャルル・ド・ゴールは、インド洋において日豪海軍などと高度な合同訓練を行なった」と述べ、この地域におけるフランスのプレゼンスと地域諸国との協力の重要性を効果的に強調していた。

 来年も同時期にインド太平洋方面派遣訓練を実施するのであれば、国際会議での高官の発言との有機的な連携による効果的なメッセージの発信が望まれる。

(了)

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